Building Trust through Understanding America’s Diversity

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米国の多様性理解し信頼構築を 慶応大学教授・阿川尚之

 中間選挙で政権与党の民主党は惨敗したものの、日米関係は概ねよい方向へ動いている。アベノミクスはアメリカで日本への関心を高め、安倍政権の一連の安全保障政策は党派を超えて評価されている。トモダチ・プログラムなど、若者の日米交流も増えた。

 もちろん課題は多い。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉は難航し、日米両政権とも内外の問題に忙殺され、すれ違いもある。それでも、あるいはだからこそ、両国は同盟国として緊密な対話と協力を続け、共通の利益と価値を増進させねばならない。そして両国間の信頼関係維持には、何より人と人との繋(つな)がりが大切だ。

 ≪日系人らしくない日系人≫

 今後、日米関係を担うのは、どんな人たちだろうか。最近、故イノウエ議員らが創設した日系人主体の民間団体「米日カウンシル」の年次総会にホノルルで出席し、いろいろ感じることがあった。

 その1つは、日系人らしくない日系人が増えたことである。たとえば総会でキーノートスピーチをした米海軍太平洋艦隊のハリス司令官は、横須賀生まれ。父親が米海軍の曹長、母親が日本人で、日本人の風貌は残るものの、少年時代を過ごした南部のなまりがあり、外見は日系人らしくない。

日系人は教育程度、所得水準が高く、少数民族の中で他人種と結婚する率が最も高い。若い世代には白人にしか見えない者も多い。ワールドシリーズを制したサンフランシスコ・ジャイアンツのトラビス・イシカワ、スケート・ショートトラックの金メダリスト、アポロ・オーノは、新しい日系人の例である。

 新しい世代の進出は日系人に限らない。同じ総会でパネリストとして登場したハワイ州選出のタルシ・ガバード連邦下院議員は、サモア生まれでヒンズー教徒、イラク戦争に2度従軍した女性軍人として、それぞれ史上初の連邦議員だそうだ。まだ33歳の新人議員ながら下院軍事委員会、外交委員会のメンバーとして活躍している。

 ≪多様多彩な次世代リーダー≫

 アメリカ社会で成功への道はさまざまだ。どこからスターが現れるか分からない。しかし次世代のリーダー群がこれまで以上に若く多彩であるのは、間違いない。

 たとえばオバマ大統領が最高裁判事に任命する可能性を噂される全米の優秀なロイヤーの中には、白人やユダヤ系に加え、香港やインド生まれ、ベトナム難民出身の女性、中国系、韓国系、メキシコ系の女性が含まれる。

多様化の傾向はエリートの登竜門として知られるローズ・スカラー(全米の大学の最優秀卒業生から選ばれ2年間オックスフォードへ留学)、ホワイトハウス・フェロー(毎年全国の官民から選ばれ連邦政府で勤務)でも見られる。

 少数民族系が不利な政治の世界でも将来の大統領候補と目される人の中に、インドからの移民の息子であるジンダル・ルイジアナ州知事、キューバ系でフロリダ州選出のルビオ連邦上院議員、メキシコ系の母をもつジョージ・P・ブッシュ(ブッシュ元大統領の孫)など40歳前後の人物がいる。

 また今日では、同性愛者が有力な政治勢力となっている。人気俳優ジョージ・タケイは、「夫」と一緒に総会へ出席、同性愛者の権利について熱弁をふるった。アップルのクック最高経営責任者(CEO)など、各方面の指導層に公然たる同性愛者が増えている。連邦最高裁も昨年、事実上同性婚を認める判決を下した。

 さらに、ガバード議員のような軍人出身のリーダーも多い。女性経営者も増えた。もう1人の総会キーノートスピーカーは、ロッキード・マーティン社のCEO、マリリン・ヒューソン女史だった。

≪複層的な人の絆をつくる≫

 バラバラなバックグラウンドをもちながら、彼らには1つ共通点がある。それは全員が誇り高いアメリカ市民であることだ。何系だから、同性愛者だからといった先入観をもって対すると、間違う。

 このように多様な人々の中で誰が大統領になり、議員になり、対日政策・対外政策に影響を与えるかは、神のみぞ知るである。しかしすでに黒人大統領を生んだアメリカで、将来、インド系大統領やベトナム系女性最高裁判事が出ても、驚くにあたらない。

 アメリカ人は相手を個人として判断し、ユニークな経歴や個性に興味を示す。そこから多様性への積極的な評価が生まれる。日本のように勤続30年とか謹厳実直ばかりでは、相手にされない。日本にもさらに多様な個性がほしい。特に若い世代にそれを望みたい。

 もちろん歴史や文化の違う日本が、アメリカほど多様になるとは思えない。均質性にも利点はある。ただ少なくともアメリカ社会の多様さに関心を抱き、理解し、アジア系はじめユニークですぐれたアメリカ人を友人にもつ。そうした人々に何らかの形で日本へ関与してもらう。人種差別を超える複層的な人と人の絆をつくる。

 回りくどいようだが、それが日米関係を長く維持発展させ、さらに世界へ繋がる道でもある。(あがわ なおゆき)

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