As Long as the Japanese-US Alliance Holds, There Will Be No War With China

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日米同盟ある限り米中戦争なし 防衛大学校教授・村井友秀

 戦争は人類にとって最大の災害である。「災害」を防ぐには日頃の「防災対策」が重要である。

 パワーシフト理論によれば、戦争が発生するパターンは、軍事的に弱者であった国家が軍事力を拡大し相手国よりも軍事的に強くなったと認識した場合である。その場合に強くなったと認識した国家が、獲得した優位をより確実にするために、従来の強者、すなわち現在の弱者を打倒しようとする戦争がある(機会主義的戦争)。

 ≪大規模戦争は核兵器が阻む≫

 現在、米国は数千発の核兵器と数百発の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を保有し、10隻以上の航空母艦を実戦配備する世界最強の国家である。他方、中国は航空母艦を建造し、数百発の核兵器を保有し、数十発の大陸間弾道ミサイルの近代化を進めている。米中の軍事バランスは逆転するのか。

 戦争には大規模戦争と小規模戦争がある。米中両国が大規模戦争に入れば、それらの核兵器による攻撃にさらされる可能性がある。現在の両国にとり核兵器による被害を上回る戦争の利益は考えられない。従って、米中間に大規模な戦争が発生する可能性は低い。

 では小規模戦争が発生する可能性はあるのだろうか。双方が核兵器を配備していれば、核戦争につながる大規模戦争は抑止できる。大規模戦争を抑止できれば、戦争は小規模のうちに終わらせることができる。小規模戦争は被害が少なく、勝利することによって得られる利益が被害を上回る可能性もある。国家間の関係を外交と言うが、世界の常識では外交(強制外交)の中に軍事力による威嚇や行使(小規模戦争)も含まれる。

 パワーシフト理論によれば、戦争は現状を変更しようとする現状変更国の軍事力が現状維持国の軍事力を上回った場合に勃発する。現在、米国は世界の覇者であり、現状維持が米国の利益である。他方、中国は東シナ海や南シナ海で現状を変えようとしている現状変更国である。現状変更国、中国の軍事力が現状維持国、米国の軍事力を上回った場合に戦争が発生する可能性が高くなる。ただし、米中間の戦争は、起きても大規模戦争ではなく小規模戦争である。

 ≪中国優位が誘う小規模戦争≫

 小規模戦争とは、地域が限られ兵器も制限された戦争である。米中間の小規模戦争は、中国の軍事力が米国の軍事力よりも優位に立つ可能性がある場所で発生する。米国の軍事力の総力は、中国の軍事力の総力を圧倒している。しかし、ミサイルには射程があり、軍艦や軍用機には航続距離がある。一般的に航空優勢は距離の二乗に反比例する。だから、戦場が中国に近づくほど、米国から遠くなるほど戦争は中国に有利になる。

かつて、米ソが世界のあらゆる場所をICBMで攻撃できるようになったとき、距離の遠近は戦争の大きな要素ではなくなったといわれた。小規模戦争ではしかし、ICBMをはじめ核兵器は使われない。戦場に展開できる軍艦と軍用機の優劣が勝敗を決定する。

 それでは、米中戦争があり得る中国近くの東シナ海や西太平洋において小規模戦争に突入したら、米中どちらの軍事力が有利か。

 現代の戦争では、空を支配する側が戦場を支配する。軍用機の戦闘行動半径は数百キロ~2千キロほどであり、小規模戦争で使用されるミサイルの射程も数百キロ~2千キロほどである。従って、軍用機もミサイルも、戦場に数百キロ~2千キロほどの距離にまで近づかなければならない。逆にいえば、小規模戦争の戦場は、基地から数百キロ~2千キロほどの位置に絞られる。

 ≪基地で東シナ海は米有利に≫

 米国は先に述べたように、移動基地ともいえる空母を10隻以上実戦配備している。戦場がどこであっても、それら数百機の軍用機を戦場に投入することができる。

 他方、中国は実戦配備された空母を保有せず、戦場は陸上基地から数百キロ~2千キロほどの場所に限定される。南シナ海でもスプラトリー(南沙)諸島に基地を建設しなければ、中国の軍事力は南シナ海全体に及ばない。フィリピンと領有権を争う南沙諸島で一方的に埋め立てをして基地建設を進める理由も、そこにある。ただ、陸上基地の数は米国の空母より多く、発進できる軍用機の数も米軍を上回っている。また陸上基地からは多数のミサイルも発射できる。

 中国の陸上基地対米国の空母という図式では、米軍が必ずしも有利とはいえない。しかし、戦場が東シナ海にある場合には、戦場から数百キロ~2千キロほど離れた場所に日本がある。日本の基地を利用できるから、米軍は空母と陸上基地を持つことになり、中国より有利な立場に立つことができる。

 従って、日米同盟が機能していれば、戦場が中国に近く米国から遠い東シナ海であっても、米国は小規模戦争を有利に展開できる。日米同盟が機能する限り、東シナ海において米中間に軍事力の逆転は発生せず、パワーシフト論からみた米中戦争の可能性は低いのである。東シナ海や西太平洋の平和を維持するキーポイントは、日米同盟の存在ということになる。(むらい ともひで)

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