The Syria Attack Signals a Change in the Direction of the US Administration

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世界をどういう方向に導こうとしているのか。米トランプ政権のシリア攻撃からは包括的な戦略が見えてこない。ロシアと連携して中東を安定させる、という従来の方針とは正反対の動きである。超大国の急旋回は世界の混乱に拍車をかけかねない。

 シリアのアサド政権が罪もない市民を化学兵器で殺りくしたのをみて、方針を変えた。トランプ大統領はそう強調した。シリアは化学兵器禁止条約の加盟国であり、本当に使用したのならば非難されてしかるべきだ。

 とはいえ、国連安全保障理事会などに明確な証拠を提示することもなしに武力行使をしたのは、はやり過ぎである。米国は「大量破壊兵器を保有している」として2003年にイラクに攻め込んだが、発見できなかった。

 そうした過去への反省から武力行使に一貫して消極的だったオバマ前大統領との違いを出したかったのか。だとすれば、大統領選で公約した「米国は世界の警察官ではない」との発言と辻つまが合わない。政権幹部とロシアとの不透明な関係を隠蔽する狙いがあったのだとすれば重大問題である。

 ロシアは引き続きアサド政権を支える構えだ。米国が反アサドに回ることで内戦はさらに長引く可能性が高い。難民が再び大量に生まれ、欧州になだれ込んだ場合への備えは検討してあるのか。ドイツのメルケル首相との首脳会談でトランプ氏は握手もしなかった。あとは欧州連合(EU)に任せきりにするというのではあまりに無責任だ。

 イラン情勢も不透明になる。米ロが保証人になる形で核兵器開発を封じ込めたのに、合意が振り出しに戻るかもしれない。

 アジアの安保環境への影響はまだ読み切れない。トランプ政権は武力行使をためらわない。そう印象付け、北朝鮮に風圧を与える効果はあるだろう。ただ、それがかえって暴発の引き金になるおそれも十分ある。

 北朝鮮の背後にいる中国との関係も微妙である。ロシアと手を組んで中国を孤立させる、という外交カードがもはや役立たないことだけは確かである。

 ホワイトハウスではさまざまな権力闘争がなされているようで、相変わらず誰が司令塔なのかがよくわからない。世界がトランプ政権に振り回される状況は終わりそうもない。その覚悟が必要だ。

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