America’s Russia Question: Face Up to the Crisis in Democratic Politics

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米国の民主主義を脅かす試練が幾重にも噴き出している。それが「ロシア疑惑」をめぐる一連の動きであろう。

 2年に及ぶ捜査結果をまとめた報告書が公表された。前回の大統領選挙にロシアが介入した事実を認定したうえで、トランプ陣営の関与を調べた。

 陣営とロシアとの共謀を示す証拠はなかった。しかし、トランプ大統領が捜査を違法に妨げたか否かの結論は見送った。その判断は議会に委ねている。

 議会は党派を超えて、三権分立の重みを認識すべき局面だ。大統領を監視し、暴走を防ぐ責任を果たせるか。国民が納得できる審議を尽くさねば、政治不信がさらに深まるだろう。

 報告書から浮かび上がったのは、大統領権力の乱用ぶりである。捜査当局への圧力と人事権の強行には、疑惑逃れの狙いがあったのは明らかだ。

 それでも訴追しないのは、現職大統領は憲法解釈上、起訴できないとする司法省の立場や、大統領の意図を立証する難しさなどの壁があるからだ。

 捜査をめぐる要求をのまなかったFBI長官と司法長官を更迭した経緯などは、大統領による行政倫理への挑戦である。訴追できずとも、政治責任が厳しく追及されるのは当然だ。

 ところが残念ながら、議会は与野党でまったく受け止め方が異なる。野党民主党は大統領の不正を強調するのに対し、与党共和党は大統領に迎合するように幕引きしようとしている。

 そもそもこの「ロシア疑惑」は、長く続いている米国政治の病が表出したものともいえる。それは、党利党略が何より優先される分断政治である。

 予算編成の論争が収まらずに政府が閉鎖され、国民生活や経済の足を引っぱる。そんな状態はオバマ前政権時にも起き、政治の機能不全は米国債の格下げの一因にもなった。

 トランプ現象を生んだ大統領選を起点とする「ロシア疑惑」もその延長線上にある醜い政争の一端である。

 政敵をたたいて選挙に勝つには手段を選ばぬ候補陣営。外国情報機関による介入が発覚しても、保身に走る大統領。それでも党派の利害を通じてしか問題を見ようとしない政党……。

 現実的には今後、議会での真相究明がすすむ見通しは暗い。与野党とも、来年の大統領選・議会選に向けて世論の動向をうかがいつつ、疑惑の取り扱いを左右させるだろう。

 果てしない政争がもたらす米民主政治の危うさを、米政界はいつになれば直視できるのか。国際社会は、米国第一主義の独善外交とともに、米内政の分断と対立を憂鬱(ゆううつ)な目で見ている。

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