US Presidential Election: Quit Looking Inward and Contribute to the World; Respond with Allies to Series of Crises

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異例ずくめの米国選挙イヤーである。来月3日、アイオワ州で民主党の候補者選びが行われるのを皮切りに、大統領選がいよいよ始動する。一方、米上院では、トランプ大統領のウクライナ疑惑をめぐる弾劾裁判が始まった。

 ただでさえ支持政党で米国が真っ二つに割れる選挙と並行し、議会では現職の大統領が裁かれ、互いが政敵を激しく罵(ののし)り合う。尋常ならざる混迷の中で超大国の指導者が選ばれるのである。

 憂慮すべき状況といわざるを得ない。米国の分断が固定化し、与野党ともに内向き志向が先鋭化するかもしれない。トランプ政権1期目最後の1年で、米国の孤立主義がさらに深まる恐れがある。

 ≪「支持者第一」は危うい≫

 世界はトランプ氏の指導力を試すように変動している。米イラン対立は一触即発の危うさにあり、北朝鮮も生き残りをかけて核兵器開発を加速する懸念がある。

 時代はまた、日米欧などの自由・民主主義陣営と中国、ロシアを中心とする権威主義陣営という異なる価値観の衝突に突入した。

 既存秩序が崩れかけた世界の混沌(こんとん)とどう向き合うか。連鎖する危機や脅威にどう対峙(たいじ)するか。トランプ氏はもちろん、与野党双方は真摯(しんし)に応えるべきだ。その行方を厳しく注視したい。

 トランプ氏が3年前の就任演説で、「米国第一主義」を表明したことは、国際社会に地殻変動を起こすパラダイム転換だった。

 宣言通り、トランプ氏は多国間協調に距離を置き、温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」や環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)から相次いで離脱した。

 もっとも、覇権を競う中国の習近平政権との間で「新冷戦」とも呼ばれる本格対決へと舵(かじ)を切ったのは、米保守政治の伝統である現実主義に沿う外交である。

 中国からの統一圧力にさらされる台湾に、武器売却や高官交流などの明確な支援を打ち出したことも地政学的要衝としての重要性に着目した賢明な判断であった。

 トランプ氏は、大統領選で「強い米国」の指導者を演じよう。だがそれは、同盟国や友好国と共通の価値や秩序を守る「世界の警察官」を意味するものではない。

 むしろ、白人労働者などの岩盤支持層を手放さぬよう、「米国第一」ならぬ「支持者第一」の政策や公約をツイッター上で乱発するのではないか。

 それでは困るのだ。政権は予測不能な国際情勢から手を引くことはできない。イランとの緊張が急激に増したことはその予兆だ。

 報復の応酬がひとまず沈静化したとはいえ、イランに同調するシーア派武装勢力が中東各地で米国人を標的とした執拗(しつよう)なテロを仕掛ける可能性がある。反米ムードは周辺国にも拡散している。

 米国人に犠牲が出て「懲罰」を求める世論が高まれば、トランプ氏は最高指揮官として重大な決断を迫られることになる。

 ≪二正面の危機忘れるな≫

 米国が中東への対応に翻弄されれば東アジアへの関与が手薄となりかねない。ところが、日本が原油輸入の9割を中東に頼るように、ふたつの地域は密接に結びつく。危機が瞬時に飛び火することも覚悟しなければならない。

 米中が対立する基調は変わっていない。中国が台湾海峡や東・南シナ海で軍事的圧力を強めていることを忘れてはならない。

 北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は米イラン対立を固唾をのんで見守っているはずだ。イランの司令官が米国に殺害されたのは核保有国でないからだと、これまで以上に核ミサイルにしがみつくことも想定しておく必要がある。

 東アジアと中東における二正面の事態に対応するには日本や欧州など同盟国との連携がカギを握る。それなのに政権の「同盟軽視」は1年前のマティス前国防長官の辞任以降、露骨になった。米軍駐留経費負担の大幅増を迫る圧力を強めるかもしれない。

 米国がこのまま同盟諸国との溝を広げれば、事実上の同盟化を進める中露の思うつぼである。大胆かつ巧妙に大統領選へ介入する脅威に、備えは万全だろうか。

 日米安全保障条約改定60年の節目を迎えた日本には、米国をアジアにつなぎ留める外交努力が求められる。まずは極東から中東ホルムズ海峡に通じる広大なインド太平洋に、「自由で開かれた」地域秩序の構築を急ぐことである。

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