America’s Middle East Policy Doesn’t Deserve To Be Called a ‘Peace Plan’

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パレスチナ難民は今も各地に約550万人いる。大半が劣悪な暮らしを強いられ、世代を重ねてきた。一方のイスラエル市民も無数のテロの悲劇を経て、緊張の日々を送っている。

 70年以上続くイスラエルとパレスチナの紛争は、国際社会が歴年の努力を注いできた難題である。その積み重ねを無視するかのような新提案を、トランプ米大統領が打ち出した。

 形のうえではパレスチナ国家を樹立し、イスラエルと共存する「2国家解決」をうたう。だが実態は、難民の帰還も認めず、露骨なまでにイスラエルに肩入れする内容だ。

 両者が帰属を争うエルサレムは、イスラエルの首都とする。武力で併合された、キリスト教やイスラム教の聖地がある地域も含まれる。占領地で進めてきたユダヤ人入植地の大部分をイスラエルの領土と認める。

 これらは国際合意を踏みにじる暴論だ。国連安保理は、イスラエルに占領地から撤退するよう決議で求めている。入植地の拡大は国際法違反だと繰り返し指摘してきた。国連事務総長がこの提案を事実上認めない声明を出したのは当然だ。

 パレスチナ自治政府のアッバス議長は、即座に受け入れを拒否した。ところがイスラエルのネタニヤフ首相は、入植地の一部併合の閣議決定に踏み切る構えだ。一方的な領土編入を強行すれば、中東和平の道のりは決定的に遠のく。

 米国の歴代政権は曲がりなりにも、仲介者としてのバランス外交に腐心してきた。だが、トランプ政権はこの3年間で公平性をかなぐり捨てた。米大使館の所在地をエルサレムに移し、パレスチナ難民を支援する国連機関への拠出金も止めた。

 背景には、秋の大統領選への思惑があるとみられている。自らの基盤の一つであるキリスト教福音派はイスラエルを支持している。また、盟友のネタニヤフ首相は3月の総選挙を前に汚職で起訴されており、援護射撃を与える側面もあろう。

 選挙対策に外交を利用する振るまいが、どれほど米国の信用を損ねているか、トランプ氏が顧みる気配はない。

 パレスチナ自治区では抗議デモが起きている。イスラエル軍との衝突が懸念される。過激派組織「イスラム国」(IS)も攻撃を呼びかけた。

 サウジアラビアやエジプトなど親米アラブ諸国は提案を評価する一方、トルコやイランなどは批判を強めており、地域の亀裂が深まる恐れもある。

 紛争の解決につながるどころか中東の混迷を深めるだけだ。この提案を「中東和平案」と呼ぶことは到底できない。

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