原油価格を抑えるため、米バイデン政権は日本、中国、英国などと協調して石油備蓄の一部を市場に放出すると発表した。
原油価格の高騰は各国で物価高を招き、経済の波乱要因となっている。主要消費国が対策で足並みをそろえる意義は小さくない。
ところが米国の発表を受け、原油価格は上昇してしまった。
中東などの産油国が備蓄放出の動きに反発して生産量を絞る―との見方が広がったためだ。
原油市場の規模に比べ、放出できる備蓄量はごくわずかだ。価格を期待通り引き下げる効果が見込めるのだろうか。
産油国が増産に消極的なのは、コロナ禍で落ちた需要が簡単には回復しないとみているためだ。
脱炭素の流れの中、需要が長期的に減っていくのは確かだ。とはいえ、現在のような供給不足が続くのは弊害が大きすぎる。
消費国は産油国と粘り強く協議し、折り合える生産量と価格を探るべきだ。産油国も、責任の重さを踏まえ柔軟に対応してほしい。
米国の発表を受け岸田文雄首相はきのう、石油の国家備蓄を初めて放出する考えを表明した。
国家備蓄は第1次石油危機を契機に始まった。苫小牧東部地域など全国10カ所に基地がある。
国内消費量145日分の備蓄のうち、数日分に当たる数十万キロリットルを市場で売却する。
気になるのは、放出の法的根拠がはっきりしないことである。
石油備蓄法が放出を認めるのは、災害時や供給が途絶する恐れがある場合に限られる。今回は価格抑制が目的であり、法の趣旨に合致しないのではなかろうか。
政府は当初「余剰分なので問題ない」と言い、その後「古い石油を新しい石油に入れ替えるための売却」と説明を変遷させている。
米国の意向に沿い、放出ありきで進めたと言われても仕方ない。
政府は石油元売りに補助金を出し、ガソリンや灯油の価格を抑えるとも言う。だが補助金が小売値に十分反映されるかは疑わしい。
灯油需要期を迎え国民生活にこれ以上影響が出ないよう、実効性のある支援策が欠かせない。
原油価格を巡っては、最大の産油国である米国の生産が伸びないことも上昇要因とされる。
中東との競争やコロナ禍で石油業界の採算は悪化し、経営合理化を優先させている。米政権の脱炭素方針も増産の逆風だ。
他国に増産を求めるなら、こうした点を丁寧に説明すべきだ。
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