【舛添直言】「米vs中露」新冷戦、燻りだしたウクライナと台湾
不発、中露囲い込みのための「民主主義サミット」も効果は限定的
アメリカと中国やロシアとの対立が深まっている。かつての米ソ冷戦のように、今は「米vs中露」冷戦といった感じになっている。両陣営間には核兵器による抑止力が働いているが、緊張が軍事的紛争に拡大する危険性は無視できない。現状と今後の展望について述べたい。
台湾問題、中国には「内政問題」でも米欧にとっては「自由と民主主義」に関わる問題
バイデン大統領による北京五輪の外交的ボイコットについては、先週のこのコラムでオリンピックの問題点という観点から論じたが、今回は米・中露対立という観点から深掘りしたい。
(参考)【舛添直言】外交的ボイコットに見る「五輪=平和の祭典」の虚構 〈https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/68056〉
アメリカは、新疆ウイグル地区や香港における人権弾圧やテニス選手の彭帥の行方不明問題に焦点をあてて、北京五輪の外交的ボイコットを決め、それにオーストラリア、イギリス、カナダが同調している。フランスは、ボイコット反対の立場であり、日本は玉虫色の対応を考えている。安全保障をアメリカの核の傘に頼り、また中国とは経済的相互依存関係を深めている以上は、そうするしかないのである。
15日にはプーチン大統領と習近平国家主席がオンラインで協議したが、アメリカの外交ボイコットに対抗する形で、「スポーツの政治問題化の企み」を批判した。プーチンは北京五輪への出席を表明したのである。
アメリカや西ヨーロッパは台湾への関与を強化している。たとえばリトアニアは、台湾の代表部を開設したが、これに反発する中国はリトアニアとの外交関係を代理大使級に格下げするなど対抗措置をとっている。中国は、国際的に認められた「一つの中国」という位置づけを喧伝し、台湾問題は内政問題であり、他国の干渉は許さないという立場を堅持している。
しかし、アメリカやEUは、台湾問題を自由と民主主義の砦であり、中国による軍事的統一を許さないという姿勢である。「内政問題」と「民主主義」という対立図式を解消するには、中国が共産党独裁を止めて民主化するか、台湾の人々が自らの意志で中国への帰属を決めるかしかない。残念ながら、そのような状態が直ぐに生まれるわけではない。
民主主義サミット、中国と関係深い民主主義国を参加させないという矛盾
中国を牽制するために、アメリカはQUAD(アメリカ、日本、オーストラリア、インド)やAUKUS(オーストラリア、イギリス、アメリカ)などの安全保障の枠組みを整備している。また、2022年度の国防権限法案が議会で可決され、総額7682億ドル(87兆円)の国防予算となったが、インド太平洋地域での抑止力の向上のための基金については、71億ドル(8000億円)と前年度22億ドルの3倍以上となっている。米議会は、台湾防衛への支持を表明し、さらには、新疆ウイグル自治区の強制労働によって生産された製品の調達をペンタゴンに禁じた。
こうしたアメリカの動きに対して、ロシアと中国は軍事協力を強化している。10月は、中露合同艦艇10隻が日本列島を周回し、11月には両国空軍の爆撃機が日本海や東シナ海上空を旋回している。
また、9、10両日には、バイデン大統領は、110の国・地域を集めてオンラインで「民主主義サミット」を開催した。ロシアや中国を「権威主義」国家と名指しで批判し、それに対して「民主主義」陣営が団結することを高らかにうたった。
しかし、万人が納得するような「民主主義」と「権威主義」を明確に区分する基準をバイデン政権は確立しているのであろうか。ブリンケン国務長官は「アメリカは民主主義と人権を外交政策の基軸に据えている。法の支配や公平な選挙、表現の自由が民主主義の基礎だ」と述べているが、その基準を厳格に適用すると、参加できる国や地域の数は限定されてしまうだろう。
たとえば、インド、フィリピン、コンゴ民主共和国、イラク、パキスタンは招待されながら、トルコ、ハンガリー、シンガポール、タイが招待されなかったことに違和感を持つ人は多いだろう。要するに、今のアメリカの国益が判断基準であり、中国を牽制するために台湾を招いた意図が見えるのである。
中国との関係を重視するパキスタンは、自らの意志で参加しなかった。また、サミット開催中の10日に、アメリカの庭先である中米のニカラグアが台湾と断交し、中国と国交を回復している。反米左派のオルテガ政権は、もちろんサミットには招かれていなかった。さらには、アメリカの同盟国であるサウジアラビアなど多くの中東諸国は招待されていない。アメリカが20年もかけて民主主義を育成しようとしたアフガニスタンが、いまやタリバンの専制主義の下、多くの国民が飢えに苦しんでいるのは皮肉なことである。
予想以上に早く始まった中国の「人口減少」
民主主義サミットを開いたからといって、中国やロシアの封じ込めが成功するわけではない。両国とも核兵器を含む巨大な軍事力を誇っており、とくに最近の中国の軍拡は凄まじい。航空母艦の建造をはじめ、海洋進出能力を急速に高めている。また、一帯一路政策の下、中国が使用可能な港湾施設等を世界中に建設している。中国とラオスを結ぶ高速鉄道の建設に見るように、中国に依存する発展途上国側は債務の負担によって北京の軛(くびき)につながれてしまうことになる。
アメリカに代わって世界の覇権国になるために、習近平政権はあらゆる努力を惜しまない。中華人民共和国建国100周年を迎える2049年がパックス・シニカ確立の目標年である。監視国家であるが故に、5GやAIなどの分野でも最先端技術の開発にも余念がない。
しかし、中国にもアキレス腱はある。それは人口問題である。中国の2020年の特殊合計出生率は1.3と建国以来最低を更新している。今年にも出生数が死亡数を下回り、人口減少が始まると予測されている。人口減少は2030年頃に始まると予想されていたが、それが10年早まった。
超少子化は、中国の大きな足枷となる。軍拡を進め、GDPで世界第2位になっても、人口問題が中国の発展の大きな阻害要因となるからである。戦闘機や空母があっても、兵隊がいなければ機能しないのである。
かつてウクライナに譲ったクリミア半島をロシアが強引に“再併合”
中国政府は、一人っ子政策を止め、今年の5月には第三子までの出産を認めることにしたが、効果が上がるとは思えない。子どもの教育費に莫大なお金がかかり、また住宅費の負担も馬鹿にならないからである。一人っ子どうしが結婚すると、夫婦で4人の高齢者(老父母)の面倒を見ることになる。死ぬまで健康であればよいが、介護が必要になってくるとたいへんな負担となる。ところが、中国にはまだ全国をカバーする介護保険制度は導入されていない。
このような社会保障制度の遅れは、たとえば、親の介護で仕事に支障を来すという状況を生むことに繋がる。社会の活力の維持、そして国防上も大きな問題である。アメリカも少子化の方向に向かっているが、流入する移民の影響もあり、合計特殊出生率は1.7以上あり、その点では中国よりも楽観的である。人口問題が中国の大きなアキレス腱となる可能性がある。
台湾海峡とともに、焦臭くなっているのがウクライナである。先述した米国防権限法でも、ウクライナへの軍事支援に3億ドルを拠出するほか、ヨーロッパでの抑止力強化のための基金に40億ドル計上している。一方、中国とロシアも15日の首脳協議で、習近平はNATOに対抗するプーチンの安全保障政策(NATOの不拡大)への支持を表明している。
ロシアは、2014年3月、ウクライナ領のクリミア半島を併合した。日米欧などは、これをロシアによる侵略と非難したが、ロシアは、住民投票を経て独立が宣言され、ロシアとの併合が条約によって決まったと主張しているのである。
1954年にフルシチョフがクリミアをロシア共和国からウクライナ共和国に「友好の証」として譲ったが、ロシア共和国もウクライナ共和国もソ連邦の一部であり、どちらに帰属しようがフルシチョフにとっては、たいした問題ではなかったのである。まさか1991年にソ連邦が解体するとは夢にも思っていなかったであろう。
ウクライナのNATO加盟問題、ロシアにとっては過敏になってしかるべき問題
ウクライナ東部のロシア国境地帯に住むロシア人もまた、分離独立の動きを強めており、ロシアは彼らを支持し、ウクライナ国境地帯に軍隊を集結させている。アメリカ情報筋は、年明けにも17万5000人の軍隊がウクライナに侵攻すると警告している。侵略の手法は、クリミア併合と同じである。
ロシアが特に容認できないのは、ウクライナがNATOに加盟することである。ソ連邦解体後、バルト三国のようにNATOに加盟する旧ソ連の共和国が続出した。ロシアと国境を接するベラルーシとウクライナは、ロシアの安全保障上不可欠な緩衝地帯である。ルカシェンコ大統領率いるベラルーシは、その点を弁え、親ロシア路線を採っている。しかし、ウクライナはNATOへの加盟を求めており、それがプーチンの神経を逆なでしているのである。
ウクライナに、核兵器やミサイルなどの米国の武器が導入されれば、発射後数分でモスクワに到達する距離であり、プーチンは苛立っている。地政学的状況を弁えないウクライナの言動は、ロシア軍の侵攻を招きかねない危うさ感じざるをえない。
ウクライナもまた一触即発の危機に立っていると言えよう。
Leave a Reply
You must be logged in to post a comment.