Lessons from theNew Deal Coalition

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≪「とりあえず」では困る≫

 「100年に1度の危機」という認識がありながら、それへの政策が「まずは景気対策」ではいかにも軽い。会合で顔をそろえて「とりあえずビール」というような印象を受けるし、そこで出される政策も昔ながらの「居酒屋メニュー」ではないか。

 世界に拡散した金融危機に対応するためには、世界的な金融破綻(はたん)を食い止めることが第一にくる。先のG20(緊急首脳会合)でも決定的な解決策は示されなかった。戦後世界の金融と貿易の枠組みを決めた「ブレトンウッズ会議」(1944年)を手本とするような新たな枠組みを作ることが必要である。

 日本でも金融機関の不安定化に起因するさまざまな影響が出始めた。まっとうな企業が資金繰りができないために立ち行かず、「黒字倒産」の憂き目にあう。この厳しい現実には緊急の政策的な対応が必要だ。と同時に、金融システムの再構築という中長期の展望がなければ、この難局を乗り切ることはできない。

 では、どうすれば、実体経済の冷え込みへの対策として十分といえるのか。私も、従来の「(景気対策には)まず財政出動」という条件反射的対応には批判的であったが、今回の危機はそのレベルのものではない。世界中で短期の急激な需要不足が発生し、それを政府が補う必要が出ているのである。

 政府の政策で不足分をすべて補うことはできない。だが、危機に対する政策を21世紀版「ニューディール政策」という主張にまとめることはできる。その際に私は、途上国には無理だが日本やアメリカなどなら可能なニューディール政策として、「グリーンインフラ」と「健康インフラ」への投資があると考えている。

 ≪グリーンと健康インフラ≫

 雇用だけを考えると、過去のニューディール政策のようにダム建設や植林もありうるが、現代のニューディール政策とは、将来行うべき投資の前倒しを、政府が中心となって加速させることである。

 グリーンインフラとは、植林のことではなく、地球温暖化対策の前倒しであり、太陽光発電、リチウムイオン電池、電気自動車など産業競争力にも資する分野への投資である。健康インフラとは、いうまでもなく、超高齢社会を前にほころびが目に見えてきた医療や介護などで必要なインフラ整備のことである。

 おそらく、今こそニューディール政策が必要であるという意見は少数ではない。しかし、元祖アメリカのニューディール政策には「ニューディール連合」「ニューディール再編」という理念があったことを語る者は少ない。

 大恐慌後の1932年の大統領選でF・ルーズベルトがニューディール政策を唱えて選出された。そこで実行した政策のことは知られているが、その前提のことが抜けていることが多い。つまり、ニューディール政策で、アメリカの民主党が支持を都市の労働者や移民などを中心に広げ、確固たる基盤を作った。

 有権者を再編成するこの新しい「連合」は、世界の「政界再編」の中では最も有名なものである。

 ≪政局と政策を共に論ぜよ≫

 数え方にもよるが、このニューディール連合はアイゼンハワー期を除き1968年まで続いたという説が有力である。それは、アメリカにおいて連邦政府が確実に大きくなっていく過程でもあった。もっと極端にいえば、連邦政府が初めて政治の前面に登場したといっていいくらいの転換でもあった。それゆえ、アメリカで「大きな政府」に反対する者は、この時期にまで遡(さかのぼ)って反論する。

 一方、日本での政界再編は、麻生政権支持の急落でにわかに現実的な意味を持ってきた。しかしながらそれは、もっぱら、永田町内での話に限られることが多い。政治家や政党の組み合わせの再編という意味での「政界再編」である。それは政権獲得のための数が中心になり、有権者サイドの支持層の再編成を欠くので、長期に持続させることは難しくなる。

 「政策」が「政局」と切り離されて語られることがある。しかし、もともとニューディールとは、連合や再編という「大政局」の話そのものだったのである。永田町内の政局は、政策との関係は薄いようだが、それでは困る。100年に1度の危機の前では、政策は政局とともに論ずべきである。

 大恐慌以来の政治的・経済的な変化を読みとけば、ニューディール連合という政治的基盤とニューディール政策は裏表の関係にあることに気がつくはずである。日本の政治においても、政策を基に21世紀版ニューディール連合の戦略を描くことができるのかが問われている。(そね やすのり)

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