オバマ米大統領は20日の就任演説で、候補者としての決め言葉だった「チェンジ(変革)」という言葉を封印していた。代わりに合衆国憲法に象徴される、法の支配や人権といった建国の理想への回帰と、苦難の下での責任や義務をもっぱら訴えた。
大向こうから喝采を集めるような言葉は控え、冷静に、米国が置かれた危機の現状や過去の歴史、今後のあるべき姿を指摘する姿勢が目立った。アフリカ系(黒人)として初の大統領就任という歴史的な機会については、ケニア出身で、60年足らず前なら人種隔離政策の下、レストランで客扱いすらされなかった父親を持つ自分が大統領になったことの意味を感慨深げに語った。だが話を広げることはせず、人種問題を超越していく姿勢をうかがわせた。
演説上手とされるオバマ氏だけに、事前の報道では、歴史に残るような名文句が飛び出すのではという期待もあった。だがオバマ氏自身は、実際に治政に責任を負うようになった立場として、祝意よりも決意を示すべきだ、との考えがあったとみられる。
使った語句を見ても、故キング牧師の演説を想起させそうな「夢」という言葉は登場せず、「希望」と「理想」も3回ずつだった。それでも、「新しい」が11回、「世代」が8回、「精神(スピリット)」が5回と、理想とするビジョンは丁寧に語った。「アメリカ」以外に地名として言及されたのは過去の激戦場とイラク・アフガニスタンだけ。戦時の政権発足という様相が浮き彫りになった。
国際テロ組織アルカイダなどイスラム過激派を、名指しこそ避けたが「負かす」と宣言したのも、「最高司令官」としての決意を示すねらいからとみられる。一方、イランなどを示すとみられる反米独裁国家に対しては、誤った側にいると指摘しつつ、かたくなな姿勢を改めれば対話もあり得るとの方針に、オバマ外交の特色がうかがえた。
ニューヨーク・タイムズ紙コラムニストのデービッド・ブルックス氏は米PBSテレビで「演説の個々の言葉より、オバマ氏の映像とそれを取り巻く群衆の感情がより鮮明に印象に残った」と語った。
Leave a Reply
You must be logged in to post a comment.