Do Not Let the Protectionism Chain Start from the U.S.

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世界的な不況を受けて、米国内で貿易保護主義が頭をもたげている。米議会下院が可決した景気対策法案に「バイアメリカン」条項が盛り込まれた。このまま同法が成立すればドミノ倒しのように保護主義が世界に広がりかねない。

 この条項は公共事業で調達する鉄鋼や衣料品を米国製に限定し、外国製品を米国の市場から締め出すという差別的な内容である。オバマ米大統領は決然とした姿勢で米議会に法案の修正を迫るべきだ。

 誕生したばかりのオバマ政権が打ち出す通商政策には、世界各国が注目している。大統領は同条項の見直しが必要との考えを示したが、拒否権の行使にまでは言及していない。いまひとつ態度が煮え切らないのは、議会との鋭い対立を恐れているからだという指摘がある。

 同条項は元の法案に議員修正の形で付加された。中心的な役割を果たしたのは、オバマ大統領の身内である与党民主党の議員を中心とする鉄鋼議員連盟である。急激な需要の縮小に苦しむ米鉄鋼業界が強く働きかけたのは明らかだ。

 民主党の新人議員の提案で、空港の荷物検査員の制服などの繊維製品を米国製とする条項も付け加えられた。一方、上院は義務的な調達の範囲を鉄鋼などに限らず、工業製品一般に広げた法案を審議中である。

 一時的な人気取りにも見える議員の動きが当たり前の光景になっているのが、米政界の現状である。米企業の急速な業績悪化や雇用不安が、米議会の中に保護主義を招き入れているのは間違いない。

 金融危機に伴う需要縮小により、保護主義の誘惑にかられる国は少なくない。ロシアは自動車の輸入関税を25%から30%に引き上げた。インドも鉄鋼や一部の食品の関税率を高くしている。南米諸国にも関税引き上げの波が広がってきた。

 米国も保護主義に傾いたと見てとれば、追従して関税引き上げなどに動く国はさらに増えるだろう。バイアメリカン条項には、負の連鎖の引き金となる危険が潜んでいる。

 上院法案には「国際合意に矛盾しない範囲で適用する」との文言が付加されたが、同条項の実質的な意味は変わらない。上院でも可決されれば、最終的な立法の判断はオバマ大統領に委ねられる。同大統領は景気対策法の成立を急ぐからといって、ここで妥協してはならない。

 米国と世界の期待を担って登場したオバマ大統領には、国内の保護主義勢力を説得する責任がある。強力な指導力の発揮を期待する。

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