African Leaders, Take Lessons from Obama

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記者の目:アフリカの指導者、オバマ氏から学べ=高尾具成

 バラク・オバマ米大統領の就任演説や政策を見て強く感じる。彼はアフリカ大陸を忘れていない。「対立をあおったり、国内の社会問題の責任を西側世界に押し付けようとする指導者たちよ。何を壊すかでなく何を築けるかで、国民に評価されることを知るべきだ」。就任演説のこの部分でオバマ氏は、父の生まれたアフリカ大陸のことを考えていたと思う。思い浮かぶのは私が訪れたジンバブエだ。独裁による圧政下で市民は困窮していた。この国を含め、アフリカの指導者は今こそオバマ氏の言葉を真剣に受け止めるべきだ。

 米大統領選のさなか、私はオバマ氏の父が生まれたケニア西部を2度訪ねた。土壁トタンぶきの親族の家で、かつてオバマ氏が訪問した時、布を敷いて泊まったという土間に案内された。電気はなく、昼間でも薄暗い。床に触れ、座ってみた。硬く冷たい。入り口から赤茶けた大地が見えた。「バラクはアフリカの理解を深めようと、多くの親族の話に真剣に耳を傾けた。忙しいだろうが、村での経験は忘れていないよ」と親族は語った。オバマ氏は土間で郷愁を感じただけでなく、アフリカの民族対立や圧政、腐敗にも心を痛めたに違いない。

 「安定国」と言われたケニアは、07年末の大統領選を機に、民族間対立で1000人以上の死者を出した。与野党の連立政権樹立で収拾が図られたが、政治への信頼は揺らいだ。当時焼かれたビルや壊された家々はそのままで、国内避難民キャンプも民族ごとに分かれるなどしこりが残る。

 米大統領選でオバマ氏に一喜一憂したケニアの市民の多くは、自国の政治体制や選挙の状況との違いを、嫌でも考えさせられた。「民族や宗教が入り交じるアフリカにこそ、寛容な思想を持つオバマ氏のような指導者が必要だ。我々の大統領になってほしいというのが本音だ」。オバマ氏の父の故郷で、徹夜でオバマ氏当選を祈った住民のジャレットさん(50)は話した。

 「腐敗や策略、口封じで権力にしがみつく指導者たちは、大きな過ちを犯していることを知るべきだ」

 オバマ氏は就任演説でこうも述べた。この批判の矛先の一つは、独裁を続けてきたジンバブエのムガベ大統領だろう。大統領は白人農家から農地を強制収用して黒人農家に再分配したため、欧米の経済制裁を招き、豊かな農業国を、飢えやコレラの広がる貧困国に変えてしまった。

 隣国に脱出する人も後を絶たない。南アフリカ共和国北東部。ジンバブエと接する町メッシーナにはジンバブエからの避難民があふれる。ティノテンダさん(36)はわずかな小銭だけを持ち、逃げてきた。「欧米の制裁は大統領に向けたものだが、困窮しているのは市民だ。オバマ氏には現体制をやり直させる妙案を出してほしい」と土の上の段ボールに横になった。

 アフリカに希望がないわけではない。ガーナの姿だ。1月3日、決選投票を経て最大野党のミルズ元副大統領(64)を新大統領に選出した。支持者は「変革の風だ」とオバマ氏とミルズ氏の顔を並べた選挙グッズを手に、運動を展開した。独立後、80年代までクーデターが繰り返されたが、92年の新憲法成立以降、これで5回連続して民主的に大統領選を実施した。アフリカ各国の指導者は、ガーナにアフリカの将来像を重ねて「誇りだ」とたたえた。

 アフリカのオバマ氏への共感は、国境を超えている。顔や名前が印刷されたTシャツを着て、酒場で就任を祝う市民の多くが「アフリカの兄弟」と呼ぶ。それはブッシュ前米政権が進めたイラク戦争や、避妊を認めない偏ったエイズ対策援助などへの批判からきたものだけではない。「アフリカ系黒人の大統領ならアフリカの指導者を正せる」との希望の表れでもある。

 「その握りこぶしをほどくならば、我々も手を差し伸べる」ともオバマ氏は述べた。少々高圧的な物言いとはいえ、アフリカの専門家、スーザン・ライス氏を閣僚級の国連大使に据えたのはその具体策だ。

 マンデラ元南アフリカ大統領(90)はオバマ氏に就任に向けた手紙を送った。「努力すれば不正を克服でき、よりよい世界を達成できるという希望を世界に吹き込んだ」。アフリカ市民の希望とオバマ氏の言葉。二つは、アフリカ大陸の民主化に向けて呼応しつつある。

 次に期待されるのは、アフリカの指導者の「変革」だ。オバマ時代到来をチャンスとして、アフリカの指導者は政治運営の透明化を進め「アフリカ的な政治手法がある」との逃げ口上をやめて目を覚ますべきだ。(ヨハネスブルク支局)

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