社説:イラク開戦6年 米国からの自立を応援したい
またイラク戦争「開戦の日」がやってきた。開戦といっても戦力互角な国同士の満を持した激突ではない。歴史的にも類例のない軍事大国が、中東で虚勢を張る独裁国家に本気で侵攻した戦争だった。03年3月20日午前(日本時間)、巡航ミサイル攻撃などで口火を切った米軍は、フセイン政権をやすやすと倒した。
しかし、米ブッシュ政権は、果てしない泥沼に踏み込んでいた。大義名分とした大量破壊兵器が見つからないうえ、著名な経済学者らの試算では、米国はイラクなどで少なくとも3兆ドルのコストを負ったという。この膨大な戦費が米国経済の足腰を弱め、日本を含めて「100年に1度」ともいわれる世界不況をさらに重たくしているようだ。
ただ、時代は確実に変わっている。今年の「開戦の日」の特徴は、米国の大統領がブッシュ氏ではなく、イラク戦争に反対したオバマ氏であることだ。イラクの治安も著しく改善された。イラク戦争の歴史的評価はともかく、戦乱に苦しんだイラクの人々が平和を享受しうる環境が整ってきたことを何より喜びたい。
米軍のイラク撤退の枠組みもできた。オバマ政権は、現在14万人強のイラク駐留米軍のうち10万人前後を来年8月末までに撤退させ、残留部隊も11年末までに完全撤退させるという。
地方選挙などを通じてマリキ政権の基盤が強化されたことが背景にある。石油都市キルクークの帰属など波乱要素も少なくないが、「イラクはイラク人に任せる」というオバマ政権の基本姿勢を評価したい。
マリキ首相の出身母体であるアッダワ党の名は「イスラムの呼びかけ」という意味である。同じイスラム教シーア派のイラク・イスラム最高評議会ほどではないが、昔からイランとの関係が深く、イスラムの価値観に基づいて国家の尊厳を重んじる組織だ。
07年8月、クリントン米上院議員(現国務長官)が、マリキ首相は「国民融和を図れる人物」ではないとして更迭を求め、マリキ氏が「イラクを米国の村のように考えている」と猛反発したのも、むべなるかなである。アッダワ党の党是からみても、一日も早い米国からの自立が必要なのだ。
その目標達成のためにイラク自身が努力するのは当然だが、国際社会の援助も大切だ。国際協力機構(JICA)が今月、イラク北部で活動を始めたというのは喜ばしいことである。
「開戦の日」は、多くの犠牲者を悼む日でもあるはずだ。非政府組織「イラク・ボディー・カウント」の集計では、03年以来のイラクの民間人の死者は9万人台に達し、10万人に届こうとしている。
日本はこの戦争をいち早く支持した。イラク戦争とは何だったのか。たとえ遅ればせでも、国家としての総括を怠ってはなるまい。
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