100 Days of Diplomacy: Obama Isn't Afraid to Be "Soft"

<--

社説:視点 オバマの100日・外交 「弱腰」批判を恐れるな=論説委員・布施広

 「宗教の精神」と「自由の精神」は時に対立するのに米国では見事に結びついている、と指摘したのは、フランスの政治思想家トクビルである(「アメリカのデモクラシー」岩波文庫)。この古典的名著の出版は19世紀前半にさかのぼるが、冒頭の言葉は21世紀の米国にも十分当てはまりそうだ。

 より正確には、二つの要素が完全に融合したのではなく、絶妙なバランスで共存しているのだろう。米国は確かに自由の国だが、巨大な「宗教右派」に見られるように、キリスト教が大きな政治的影響力を持つ国だ。イラク戦争で有名になったネオコン(新保守主義派)もそんな土壌と無関係ではあるまい。

 このバランス関係を思えば、今はブッシュ前政権の息苦しさを排して「自由の精神」をうたうオバマ政権も、いずれは保守的な「宗教の精神」の揺り返しに直面するはずだ。その時こそオバマ大統領の正念場ではないかと思えてくる。

 ともあれ、政権発足後、オバマ大統領は評判の悪いグアンタナモ収容所の閉鎖を命じ、イラク撤退の道筋をつける半面、アフガニスタンには米軍増派の決断を下した。ブッシュ政権が作った「テロとの戦争」という言葉も使わなくなった。前政権時から山積する問題に素早く対処した点は評価できる。

 米露関係を修復して「新たな冷戦」の到来を避け、米露の核削減交渉を活性化したのも大きな得点だ。「核なき世界」の理想に向かって核実験全面禁止条約(CTBT)批准の意向も示している。米国を「核兵器を使った唯一の核保有国」と規定したことも含めて、オバマ政権は前政権下で傷ついた米国のイメージを修復しつつある。

 だが、目標を実現できないなら信用は下落する。今後何より問われるのは実行力だ。イランとの対話などに関して、保守層からの「弱腰」批判をはねのける気概も必要だろう。近年の民主党政権は「弱腰」批判に悩まされ、共和党政権はその分「強さ」を強調する傾向がある。「人権外交」のカーター政権、中国や北朝鮮への「関与政策」を掲げたクリントン政権は、共に弱腰とも軟弱とも批判された。

 もちろん、直接対話が常に最良の選択とは限らない。北朝鮮をめぐる6カ国協議のような多国間の枠組みも活用すべきだ。だが、イラクの安定やイスラム圏との融和を考えれば、米・イランの対話には意味がある。「宗教の精神」を重んじる米国としては、イラン革命後に深刻化した「イスラム・アレルギー」の克服に努めたほうがいい。

About this publication