医療保険法案可決 踏ん張ったオバマ政権
米オバマ政権で最重要課題とされた医療保険改革法案が下院で可決された。オバマ大統領は、インドネシアなどを歴訪する予定を変更してまで議員を説得し、わずか7票差でしのぎ切った。国を二分した議論で支持率低下なども招いた法案だけに、何とか実現にこぎつけたことは、リーダーシップの再評価にもつながるだろう。
米国では、日本の健康保険のような皆保険制度がなかった。公的な保険は、65歳以上の高齢者向けのメディケア、低所得者が対象のメディケイドなどに限られてきた。国民の3分の2は民間医療保険に加入。勤務先を通じて入るため、失業すると受給資格まで失ってしまう。無保険者は約4700万人に上るといわれている。
このため昨年の大統領選では、医療保険改革を訴えたオバマ氏が多くの期待を集めて当選。改革を打ち出し、昨年11月には公的保険制度を導入する案が下院で可決された。だが、12月の上院では、共和党などの強い反対にさらされ、民間保険を利用するなどに修正された案が可決された。
(1)中低所得者に税額控除や補助をした上で、保険加入を事実上義務付ける(2)既往症による加入拒否を禁ずるため保険業界への規制を強める―などが主な内容だ。
その後、二つの法案の一本化をめざす調整は難航。オバマ政権は思い切った作戦に出た。まず上院で可決されたのと同じ案を下院で採決。そのうえで、上、下院の意向を反映した修正条項の可決に持ち込んだ。上院も通過する見込みとなっている。
なぜこんな面倒なことをするのか。上院では、先のマサチューセッツ州の補選で民主党が敗北し、スムーズな可決に必要な60議席を下回った。そこで単純過半数で通せるよう、「二段階戦術」ともいえる手法をとったようだ。
激しい攻防だった。「公的な保険導入は社会主義化への一歩」などといった、保守派による反対キャンペーンに悩まされ続けた。土壇場ではオバマ氏が「補助金を中絶には使えないようにする」と確約し、民主党の保守派議員を説得したとされる。
改革法ができれば、保険加入率は83%から95%に上がる。ただ、財源面では大きな爆弾を抱えることにもなる。低所得層への補助などで、10年間に9400億ドル(約85兆円)の公的支出が必要とされるからだ。富裕層の高額保険への課税やメディケアの運用効率化などで1380億ドル縮減するとはいうものの、財政赤字が加速する不安はぬぐえない。
1990年代から実現をめざし、一度はお蔵入りになった経緯もある。激論の中で妥協を重ね、日本のような皆保険制度には及ばないが、歴史的な一歩であることは間違いない。オバマ氏は「米国人と良識の勝利」と胸を張った。
今後は、雇用対策などの経済政策や外交に重点が移ることになろう。「普天間」などの懸案を抱える日本も、米政権の変革の勢いにしっかり目配りしておきたい。
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