普天間移設報告/頭越しでいくら進めても
米軍普天間飛行場の名護市辺野古崎への移設をめざす日米両政府が、代替施設の工法や配置に関する報告書をまとめた。
辺野古移設を確認した5月の共同声明では、8月末までに専門家による検討を完了させるとしていた。期限内に協議を終え、見た目には声明に沿って進展した形だ。
しかし、報告はとても完了といえるものではない。工法は埋め立てとしながら、計画の柱になる滑走路は現行計画のV字形案と、日本が提案したI字形案を併記した。I字形案には米側が難色を示している。
加えて、米側がV字形滑走路で有視界飛行する際の新たな飛行ルートを求め、双方の溝は逆に広がった感がある。
新しいルートは従来の政府説明より陸上部に近く、移設計画の前提が崩れて騒音区域が広がる。環境影響評価の見直しも避けられない。報告はこの件を継続協議としたが、今ごろこんな重大な変更が浮上すれば、地元の不信感が高まるだけだ。
結局、報告書のとりまとめは一歩前進というより、11月の沖縄県知事選への影響を懸念する菅政権の決着先送りを米側が受け入れたことを示す。それが実態だろう。
いまや普天間問題は日米間最大の懸案である。苦しい先送りであっても事態が動く見通しがあるならまだ分かる。だが、実際は前に進まないだけでなく、道のりはさらに険しくなっている。
政府から報告書について説明を受けた沖縄県の上原良幸副知事が「移設は極めて困難との認識は変わらない」と述べていた。その言葉からも、頭越しの「進展」に対する沖縄の強い反発が読み取れる。
この状況で、辺野古移設が本当に現実的な案といえるのかどうか。地元の理解が得られないようでは、日米合意に基づく手続きをいくら進めても移設は実現しない。
共同声明を踏襲すると言明した菅直人首相は沖縄の負担軽減をと繰り返すが、具体化へ強い指導力を示した形跡はない。知事選後への先送りも、どこまで成算があるのだろう。時間稼ぎの末に苦し紛れの選択に走れば、迷走の再現になりかねない。
さらに、民主党の代表選が今後を一段と不透明にしている。菅氏と争う小沢一郎前幹事長は、日米同意を前提にしたうえで米国や沖縄と再協議する考えを示した。しかし、打開の道筋は明確ではない。
報告書は修正にも触れたが、共同声明を見直すぐらいの手を打たないと、袋小路を脱する道は見当たらないのではないか。
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