No Winner in War to Weaken Currency

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通貨安競争に勝者はない

米国が人民元の切り上げの要求を強め、中国が抵抗するといった具合に、為替が世界経済の火種になっている。通貨摩擦を放置すると、グローバルな金融市場の動揺を招きかねない。11月の20カ国・地域(G20)のソウル・サミットは、通貨をめぐる対立が際限なく過熱するのを防ぐ仕組みを話し合う場にしたい。

 今起きている一種の通貨安競争は、外需に頼る日本にとって大変困った事態だ。7日の東京市場で円相場は1ドル=82円台に上昇。9月に日本が円売り介入を実施した水準を突破し、15年ぶりの高値をつけた。

 米連邦準備理事会(FRB)の金融緩和を織り込み、ドルは主要通貨に対し全面安になっている。ところが大きな例外がある。人民元だ。

 中国は6月に人民元の柔軟性向上を発表したが、対ドル相場はほとんど上昇していない。「カタツムリの歩み」と批判が米議会で高まり、下院は人民元安に対抗する相殺関税法案を可決した。対する中国は、温家宝首相が「米国の求める20%もの切り上げを実施すれば社会不安を招く」と述べ、要求をのむ気配はない。

 いきおい米中の通貨摩擦がクローズアップされているが、人民元の相場変動が限られている現状では、ドル安の圧力は自由に大口の取引ができる円にのしかかってくる。

 急速な円高を防ぐには円売り介入はひとつの手段だし、介入効果を高めるために日銀は機動的な金融緩和を続けるべきだ。中国が割安な人民元相場を維持しようと、大量介入を繰り返しているのとは事情が異なると、粘り強く訴える必要がある。

 みんなが自国通貨安を望んだとしても、為替取引は一方の通貨が安くなれば、他方は高くなる。ある国が通貨安に走ると別の国も後を追い、その応酬が相互不信を募らせることで結果的に誰もが傷つきかねない。

 米経済不調の根っこには住宅や証券化のバブル崩壊、家計の過剰債務がある。米国はそうした問題に正面から取り組む必要がある。中国も社会保障制度を充実させるなどして、過剰貯蓄体質を是正すべきだ。ガイトナー米財務長官は通貨問題をめぐる多国間協議を呼びかけたが、各国経済の構造問題の是正に向けた話し合いの場にすべきだ。

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