オバマの背中を押した3人の女
調査研究本部主任研究員 笹島雅彦
米国のオバマ政権は現在、世界の4か所で大きな軍事作戦を展開している。
前政権から引き継いだアフガニスタン、イラクに加え、3月11日からは、最大時2万人の兵力を投入した東日本大震災の被災地支援「TOMODACHI(トモダチ)作戦」、19日からは国連安保理決議に基づき、英仏とともにリビア空爆を開始した。
東日本大震災への支援は米国民の関心も高く、是認されている。一方、リビア空爆については、米国内でも、人道的介入なのか、もう一つのイラク戦争なのか、その目的や出口論をめぐって賛否両論が飛び交っている。ゲーツ米国防長官がアラブ世界を敵に回すことを警戒してあれほど空爆に慎重姿勢を示していたのに、なぜ、オバマ大統領は英仏への「支援的役割」として参加に踏み切ったのか。
オバマ政権内で、リビアをこのまま放置すると「反体制派住民の虐殺につながりかねない」と強く主張してきたのは、外交政策顧問の一人、サマンサ・パワー国家安全保障会議(NSC)多国間問題・人権担当上級部長だ。米週刊誌「タイム」誌などによると、リビア上空への飛行禁止区域設定を柱とする国連安保理決議案について、オバマ大統領は3月15日、ホワイトハウス内で、国家安全保障会議を開いた。この席では、パワー部長のほか、アフリカ問題に詳しいスーザン・ライス国連大使、ヒラリー・クリントン国務長官が決議案に賛成した。3人とも女性だ。じっと耳を傾けていた大統領は、続けて国防総省幹部や国家安全保障担当補佐官らから「飛行禁止区域設定では住民への暴力を排除できない」という慎重論も聞いた。会議はいったん、お開きとなる。だが、大統領は軍の司令官らと夕食をともにした後、会議を再招集し、決議案賛成の方針を決断したという。翌々日の17日、決議案は採択された。
パワー氏は現在、40歳。ジャーナリストとしてボスニア紛争などを取材してきた。その後、世界の虐殺の歴史の中で米国が知らん顔を続けてきた経緯を批判的に描いた著作「集団人間破壊の時代」(2002年、邦訳・ミネルヴァ書房=2010年)でピュリッツアー賞を獲得。ハーバード大学ケネディ行政大学院教授に転じたが、2005年に上院議員に当選したばかりのオバマ氏と知り合い、休職して外交担当の議員スタッフを務めてきた。先の民主党大統領予備選では、ヒラリー氏を「モンスター(化け物)」と呼んだことが物議を醸し、選挙運動から手を引いたが、2009年からはホワイトハウス入りし、外交面で大統領を補佐している。ヒラリー氏にはその後、謝罪して仲直りしたそうだ。
オバマ政権の外交政策は、ブッシュ前政権時代の単独行動主義から、多国間主義アプローチに比重を置く国際協調路線に転換してきた。しかし、政権スタッフの間での外交方針の一致は当初から見られなかった。パワー氏ら、人権問題を重視し、武力行使もためらわない「リベラル・ホーク」と呼ばれる人道的介入論者たちがオバマ政権に参画したことが今回のリビア空爆参加につながったといえそうだ。アラブの民主化を唱え、イラク戦争を推進したブッシュ前政権時代の新保守主義者(いわゆるネオコン)と、どこか共通するような思想的背景があり、冷めた目で国際政治を見つめる現実主義者からは警戒されている。かつて、ネオコンとの共通性を聞かれたパワー氏は「私はポール・ウォルフォリッツ(ブッシュ前政権時代の国防副長官)じゃないわ」と冗談めかして答えたことがある。
オバマ大統領は「攻撃はカダフィ氏排除が目的ではない」(3月21日・チリでの記者会見)と公言しているが、今回の人道的介入が、「オバマ・ドクトリン」の第一歩になるのだろうか。
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