With 9/11 Mastermind Killed, Work on Dialogue toward a World without Terror

<--

9・11首謀者殺害  テロなき世界へ対話進めよ

 オバマ米大統領は、国際テロ組織アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディン容疑者を殺害したことを明らかにした。

 パキスタンの首都イスラマバード郊外の住居に家族とともにいたビンラディン容疑者を、米部隊が銃撃戦を伴う地上作戦で殺害し、遺体を水葬したという。

 オバマ大統領は声明で「同容疑者の死は、アルカイダを打ち負かす取り組みの中で最も重要な業績だ」と述べたが、テロ組織の指導者をテロまがいの方法で殺害したことは世界に衝撃を与えた。

 米国の対テロ戦略には大きな節目となるだろうが、武装集団のネットワークであるアルカイダの世界的な広がりは、なお脅威だ。

 今後、報復を含めた米国や同盟国へのテロ行為が活発化する恐れもある。「テロとの戦い」の見通しは不透明なままだ。

 日本も他人ごとではない。

 菅直人首相は「テロ対策の顕著な前進を歓迎する」との談話を出したが、テロ対策特別措置法を成立させてインド洋での給油活動にあたるなど米国への支援を続けてきた経緯がある。情報収集を十分に行い、警戒するよう求めたい。

覆った米国の大義

 2001年9月11日の米中枢同時テロについて、米政府はアルカイダの犯行と断定。ビンラディン容疑者をかくまったとしてアフガニスタンのタリバン政権(当時)への攻撃に踏み切った。

 その後、04年にスペインで起きた列車同時爆破テロ、05年のロンドン同時テロなど、各地で起きたテロへのアルカイダの関与が取りざたされた。

 ビンラディン容疑者は潜伏したまま、中東の衛星テレビ、アルジャジーラやインターネットを通じてテロを呼びかける声明を繰り返してきた。

 一方、米国は9・11以降、二つの戦争とリーマン・ショックによる経済危機などで国際的地位を低下させてきた。

 対テロ戦争を名目に踏み切ったイラク戦争(03年)は、後にアルカイダの関与はなかったとする報告書を米議会が公表するなど開戦の大義が覆された。

 アフガンと合わせた戦死者も相当数にのぼる。パキスタン北西部のイスラム武装勢力掃討を目指した04年の攻撃では多くの民間人を死傷させ、パキスタンの人々の反感を買った。

 オバマ政権は今年7月にアフガンからの撤退開始を目指す「出口戦略」を描いているが、今回のビンラディン容疑者殺害がどんな影響を及ぼすか定かでない。

憎悪の連鎖を断て

 ビンラディン容疑者の殺害によって、イスラム過激派によるテロが根絶されるとは思えない。

 米国はテロ組織への武力攻撃と並行し、資金の供給源を断とうとしてきた。しかし、テロを生む根源的な問題が解決されなければ、こうした「対症療法」で大きな効果は望めまい。

 第2次大戦後にパレスチナ人を追い出して建国されたイスラエルに対し、イスラム過激派の反感は強烈だ。その憎悪はイスラエルを支持する米国に集中している。

 ビンラディン容疑者は以前「米国政府は、米国内のイスラエル勢力の回し者だ」と語った。イスラム国でありながら米国と深い関係を持つ「裏切り者」のエジプトやサウジアラビア、米国に追従する日本なども指弾した。

 米国は、アフガンやイラクで圧倒的な軍事力を見せつけたが、皮肉にもそのことがイスラム世界の人々の反米感情を煽った。ジハード(聖戦)の思想が浸透し、「第2、第3のビンラディン」を生んできた。

 米国に殺された同容疑者は、殉教者として崇拝の対象となりかねない。イスラム過激派による弔い合戦「第2の9・11」が懸念される半面、殺害によるテロ抑止効果はほとんど期待できない。

 そのリスクを承知で米国が殺害作戦に踏み切ったのは、米国社会が受けた9・11の傷が今なお深いことの裏返しだろう。オバマ大統領は「正義が成し遂げられた」と国民にアピールした。しかしこれは、復讐(ふくしゅう)の正当化にも聞こえる。

 憎悪と報復の連鎖を断ち切ることこそ、テロ根絶への道だ。

「新たな道」模索を

 中東と北アフリカのイスラム諸国では自由と政治改革を求める動きが活発化し、米国が対テロ戦争で連携してきた独裁政権は次々と倒れている。代わって、イスラム穏健派が台頭し、市民からの支持を広げている。

 こうした新たな動きが、テロに走るイスラム過激派の行動や、米国とイスラム世界との関係にどう影響するのか、注視したい。

 かつて米国の政治学者サミュエル・ハンチントンは、論文「文明の衝突」で西欧とイスラム世界の相互理解不能を唱え、話題になった。その説は9・11や対テロ戦争が裏付けたかに見える。そうした悲観論を乗りこえ、両世界を橋渡しする努力こそ必要だ。

 オバマ大統領は就任演説で「イスラム世界に言いたい。われわれは互いの利益と互いへの尊敬に基づいた新しい道を求める」と宣言した。ところが、その後は「前任者(ブッシュ大統領)と同じ道を歩んでいる」(ビンラディン容疑者)という批判どおりの強硬路線を歩んでいる。今からでも初心に立ち戻り、文明を超えた対話を始めてほしい。

 経済協力を通じてパレスチナと関係がある日本は対話のチャンネルづくりに貢献できるはずだ。米軍の後方支援や資金協力以外に、テロなき世界の創造に向けて果たすべき役割を見いだしたい。

About this publication