オバマ中東演説 和平へ導く具体策がほしい(5月22日付・読売社説)
中東や北アフリカの民衆デモは、米国の中東政策も動かしたようだ。
オバマ米大統領は中東に関する約2年ぶりの演説で、イスラエルと将来のパレスチナ国家の国境を、第3次中東戦争(1967年6月)以前の境界線をもとに画定すべきだとの考えを示した。
イスラエルはアラブ諸国と戦ったこの戦争で占領地を一気に拡大し、東エルサレムやヨルダン川西岸などでユダヤ人入植者用の住宅地を建設し続けてきた。
イスラエルとパレスチナ間の中東和平交渉では、占領地の返還が核心の議題となっている。だが、そこには入植地が多数存在し、東エルサレムと西岸では、ユダヤ人居住者は計50万人に達する。
この占領地をイスラエルが全面返還するのは「非現実的」と、ブッシュ前米大統領は語っていた。オバマ大統領はこれに対し、全面返還を交渉の出発点とした。入植地をイスラエル領に編入するなら代償措置が必要との立場だ。
パレスチナ側の主張に大きく歩み寄ったものと言えよう。
問題は、これを機に、頓挫した中東和平交渉を再び軌道に乗せることができるかどうかだ。
イスラエルのネタニヤフ首相は演説の翌日、大統領との会談で、「67年の境界には戻れない」と、にべもなく拒否した。交渉の仲介役としての米国の立場を弱める結果になったとの批判もある。
交渉再開に一石を投じた以上、米国には和平プロセスを前進させる具体策を示す責任がある。
オバマ大統領が中東政策の舵(かじ)をきった背景には、過去5か月の中東情勢の変化がある。
チュニジアやエジプトで独裁者を追放した国民の民主化要求デモは、アラブ諸国に広がり、大きなうねりとなった。
アラブ諸国で、米国は各国の独裁者とイスラエルの後ろ盾と見られがちだった。それだけに、中東への影響力を保つには、民主化を求める側に立つ姿勢を明確し、イスラエルとも一定の距離をとる必要があると判断したのだろう。
大統領が演説で、チュニジアやエジプトへの財政支援を表明し、デモ隊に銃を向けたリビアやシリアの政権を厳しく非難したのも、その変化を訴えるためだった。
パレスチナ自治政府が、一方的に独立を宣言する動きを見せていただけに、それを阻止する狙いもあったに違いない。
米国がこの地域で信頼を取り戻すには、中東和平交渉を進展させていくことが肝要である。
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