The U.S. Debt Ceiling: Compromise to Satisfy Responsibility for the World

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米債務問題―妥協こそ世界への責任

 米国債は債務不履行(デフォルト)に陥るのか。

 世界経済の要である米政府の信用が、国内の深刻な政治対立で危機に直面している。米政府の債務が14兆2940億ドルの上限いっぱいになり、議会に引き上げを認めてもらう問題がこじれにこじれているのだ。

 政府の資金繰りが限界を迎えるのは8月2日。新たな借金ができずに、米国債がデフォルトや格下げとなれば「世界の金融システムへの衝撃」(バーナンキ米連邦準備制度理事会議長)は避けられない。米議会は早急に妥協する必要がある。

 米国は史上最悪の累積赤字を抱え、債務上限の引き上げは向こう10年間の財政再建策とセットで議論されている。

 だが、昨秋の中間選挙の結果、上院で与党の民主党が、下院で野党共和党が、それぞれ多数を握る「ねじれ」構造となったことで協議が難航している。

 今月21日には赤字3兆ドル削減で合意寸前までいったが、増税の是非や来年の大統領選をにらんだ駆け引きもあって決裂。その後、上院民主党と下院共和党で別々の案をまとめるなど、状況は一段と混迷している。

 赤字削減では両案に大差はない。違いは、民主党案がオバマ大統領の任期をほぼカバーする2.4兆ドルの上限引き上げを認めるのに対し、共和党は年内分の9千億ドルを引き上げ、年明けに再協議をする「二段構え」である点だ。大統領選挙に向け、上限問題を再び政治的な駆け引き材料に使うもくろみなのだ。

 妥協への最大の障害は、「小さな政府」を旗印に、共和党内で上限引き上げに反対する茶会(ティーパーティー)の勢力だ。下院共和党の茶会議員連盟は約60人おり、離反すれば共和党は過半数が取れない。議員連盟の会長が大統領選の有力候補に浮上していることも、強硬路線の背景にある。

 金融市場はしびれを切らし、ニューヨーク株の下落、ドル安など米国売りが進み始めている。円相場は1ドル=76円台に突入し、戦後最高値寸前まで上昇している。米議会は2008年にリーマン危機の対策法案を否決し、史上最大の株価暴落を招いたことを思い起こすべきだ。

 放漫な財政に対して納税者の論理を叫ぶことは大事だろう。しかし、それが世界経済を窮地に追いやるなら本末転倒だ。

 欧州の危機が象徴するように、政府債務への信用は世界的に動揺しつつある。米議会は肝試しまがいの狭量な政争から早く脱し、良識とバランス感覚を取り戻してほしい。

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