Not So Fast: Participation in Trans-Pacific Partnership

<--

あまりにも拙速だ。野田佳彦首相が環太平洋連携協定(TPP)交渉参加の意向を固めたという。協定の利点・欠点を、政府主導で周知させる取り組みを一度でもやったことがあるのか。国民不在の拙速な判断と評さざるを得ない。

 首相は11月中旬のアジア太平洋経済協力会議(APEC)の際、まずシンガポール首相に伝える予定というが、対米従属の印象を和らげようという意図が透けて見えるようだ。

 だが、本当の狙いが米国のご機嫌取りにあるのは誰の目にも明らかだ。政府の内部文書にも「大統領選を控え、米国は(11月のAPECで)相当の成果を演出したい(中略)日本が参加表明できれば、米国が最も評価するタイミング」と書いている。

 政府・与党の中には、交渉に参加した後、不満なら離脱すればよいと主張する者もいる。だが、途中離脱は、国際信義上も、交渉力の上でもまず不可能だ。

 こうした「とにかく入ってしまえ」論は、ネズミのわなのように頭から入れば引き返せない仕組みと分かっていながら、国民を目隠ししたまま誘導するに等しい。

 TPPは農業対製造業という構図で語られることが多いが、実際は医療、建設、金融、保険などほぼ全ての分野で抜本的な制度変更が迫られる協定だ。特定の業種だけでなく、全国民が関わる重大な政策変更である。

 農産物の関税だけではない。特に重要なのは、「毒素条項」と呼ばれるルールが盛り込まれることだ。米国企業が日本で活動するのに「障害」となる制度があれば、米国企業が日本政府を訴えて賠償請求し、制度を廃止させることができる仕組みである。

 これを使えば、自治体が公共事業で地元企業を優先するルールも廃止に追い込める。「分離分割発注」は風前のともしびだ。米国の保険会社の利益を図るため、「国民皆保険」が改変され、米国並みの高額医療になりかねないとの指摘もある。

 米国は「遺伝子組み換え農業大国」だ。TPPの目的が日本への輸出拡大である以上、「遺伝子組み換え」との表記を義務付ける日本の食品表示は標的になろう。

 こうした懸念を拭えないままの参加は無責任極まる。何も日本が米大統領選に間に合わせる必要はない。参加の是非は国民的論議を尽くしてから判断すべきである。

About this publication