イラク戦争終結 米軍撤収後も山積する課題(12月16日付・読売社説)
対イラク開戦から8年9か月。米国は、イラク戦争にようやく歴史的な区切りをつける。
オバマ米大統領が、ノースカロライナ州の陸軍基地での帰還兵歓迎式で「戦争の終結」を宣言した。
大統領は、ブッシュ前政権が始めたイラク戦争を「間違った戦争」と批判し、2008年大統領選で早期撤退を公約して当選した。
間もなく駐留米軍の最後の部隊引き揚げが完了し、大統領就任後に確約した「11年末までの撤収」が実現することになる。
米国が払った代価はあまりにも大きい。開戦理由とした大量破壊兵器は見つからず、占領統治の大混乱もあって国家の威信に傷がついた。巨額の戦費で財政赤字は膨れあがり、4500人近い米兵の命も失われた。
それでも大統領は演説で、「我々は、独立し、安定し、自立した国家をイラクに残した。多大な成果だ」と強調した。
問題は、駐留米軍の後ろ盾なしに、イラクでこうした成果が定着し、発展していくかである。課題は山積している。
戦争でサダム・フセイン大統領の独裁体制が崩壊した後、イスラム教シーア派とスンニ派の対立を背景に、一時は武力衝突やテロが泥沼化した。米国は兵力を増強してようやく沈静化させたが、完全に封じ込めたとは言えない。
多くの一般国民が今なおテロの犠牲になっている。米軍撤退はテロ組織を勢いづかせ、治安の悪化を招く恐れがある。
宗派間、民族間の対立が続いており、国民和解は急務である。シーア派勢力に支持されているマリキ首相の権力基盤は脆弱(ぜいじゃく)だ。
米軍撤退につけこみ、隣国のシーア派大国イランが、イラクへの影響力を強める可能性もある。
イラク情勢が再び混迷すれば、地域全体に多大な影響が及ぶ。
イラクと中東の将来に対する米国の責任は重い。米国は今後、イラク軍育成など安全保障分野での協力だけでなく、イラクが責任ある地域大国となるよう、外交面で働きかけていく必要がある。
野田首相は11月、マリキ首相との会談で、イラクの製油所改良計画などへ約670億円の円借款を供与する意向を明らかにした。両国関係の発展に資するだろう。
原油輸入の9割を中東に依存する日本にとって、イラクの安定は極めて重要だ。
政府開発援助(ODA)などによる復興支援とともに、経済やビジネス関係を深めていきたい。
(2011年12月16日01時22分 読売新聞)
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