Sino-American Valentines

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木語:米中のバレンタイン=金子秀敏

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 中国の習近平国家副主席が米国を訪問した。ワシントンでオバマ大統領と会談した2月14日はバレンタインデー。偶然の日程ではないらしい。

 1950年、毛沢東がモスクワを訪問しスターリンと会談した。中ソ友好同盟相互援助条約を結んだ日がバレンタインデー。中ソ共産党の愛の誓いを米国に見せつけたといわれる。

 1972年、ニクソン大統領が北京を電撃訪問して米中関係が正常化した。世界を驚かせたその日が2月21日。バレンタインデーの1週間後だ。今回の習副主席の訪米は、ニクソン訪中40周年を記念する意図が明白だ。

 いま、米国と中国の関係は良くない。世界第2の経済大国になった中国が、急速に軍事力、政治力を強め、米国をいら立たせている。米議会では、米国の失業は中国のせいだという不満が吹き荒れている。オバマ大統領も一般教書演説で不公正な貿易国として中国を名指しした。米軍をアジア太平洋に集めて中国包囲網を作る新国防戦略も発表した。

 だが米国は、それだからこそ習副主席を手厚くもてなした。バイデン副大統領がワシントン、カリフォルニアと副主席に同行した。

 一方、中国も、訪米日程にアイオワ州の田舎町の養豚農家訪問を入れた。習副主席が32歳の、中国の田舎町の共産党幹部のころにホームステイした農家を再訪する。「米国の古い友人」というイメージを売り込んで、太子党派、保守派、対米強硬派のイメージを一新しようとしている。

 習副主席はただの副主席ではない。今年の秋に共産党総書記になり、来年の春には次の国家主席になる。オバマ大統領にとっては(秋の大統領選で再選されれば)、今後の米中関係のパートナーになる。今回の厚遇は、その時をにらんだバレンタイン外交だ。

 外交儀礼は義理チョコのようなものだ。だが義理チョコをスマートにやり取りするのが外交の手管だ。日本人が習副主席で思い出すのは2009年12月の訪日だろう。天皇陛下との会見日程で大もめした、あの事件だ。

 当時は鳩山政権。副主席はすでに次の国家主席予定者だった。日中間でも将来の日中関係をにらんで天皇表敬の日程が浮上した。だが、宮内庁長官が「1カ月前の文書による申し込み」という内規を盾に会見を拒み、首相官邸ともめた。この舞台裏が露見して、「中国に迎合するな」とメディアも騒いだ。結局、会見は実現したが、後味の悪さが残った。そんな日中関係と比べると、米中関係はずっとスマートだ。

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