Halt the Growth of StateCapitalism with the TPP

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TPPで国家資本主義の拡大に歯止めを

貿易と投資の新しいルールづくりを目指す環太平洋経済連携協定(TPP)交渉で、国営企業の改革が焦点になっている。アジアの新興国や途上国を中心に、政府の保護によって民間企業より有利な競争条件を得ている例が多く、市場競争に基づく自由な事業活動が阻まれる心配があるためだ。

アジア諸国での国営企業の改革は、日本にとり重大な関心事である。世界の経済成長の中心となったアジア地域で、日本企業は投資を増やしていく必要がある。

 進出先の市場で国営企業が幅を利かせていては、参入企業は技術力やビジネスモデルを生かして公正に競争できない。これは非関税障壁の弊害の一つだ。このためTPP交渉を主導する米国は、ベトナムやマレーシアなどに国営企業の民営化を迫っている。

 この交渉目標は、日本の国益と一致する。これからの日本は輸出に頼るだけでなく、世界への投資で稼がなければならない。TPP交渉への参加を急ぎ、国営企業の改革を含めて投資のルールづくりを米国とともに進めたい。

 気になるのは、日本自身の国営企業の民営化だ。民主、自民、公明の3党が国会に提出した郵政民営化法の改正案は、ゆうちょ銀行とかんぽ生命保険の株式の完全売却を努力規定とした。金融・保険分野で公正な競争条件が確保できるかどうか不透明な面がある。

 米政府内には、郵政法案の中身に失望し、日本のTPP交渉参加を疑問視する声が出ている。郵政法案の記述とTPPの理念が矛盾するとみているからだ。郵政法案ひとつで、日米が市場競争の価値観を共有できないと早計に判断されるのでは困る。

 こうした懸念に対し、日本政府は、公正な競争確保を目指す方針を十分に説明すべきだ。米国から要求されるから譲歩するのではなく、日本の国益を考えて民営化を追求していく必要がある。

 国営企業などを通して政府が市場の主要な参加者となる仕組みは「国家資本主義」とも呼ばれる。中国がその代表例で、金融、エネルギー、貿易、自動車などの有力企業の大半は国営だ。

 中国の経済モデルを手本に、国営企業の優遇策を採る新興国は少なくない。このような国家資本主義の拡大を抑え、公正な市場競争を重視する流れを強めていかなければならない。TPPはそのための有力な手段だと考えるべきだ。

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