A World Bank that a Multipolar World Demands

Edited by Gillian Palmer

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多極化が問う世界銀行の姿

 世界銀行の次期総裁が決まった。韓国系米国人の医師で、米ダートマス大学の学長を務めるジム・ヨン・キム氏である。

 日米欧が財政難で2国間の途上国支援に制約を抱えるなかで、世銀の役割は重要性を増している。途上国の実情に合わせて支援対象も拡大し、貧困や感染症、気候変動、インフラ開発といった幅広い対策を求められている。

 台頭する新興国の資金やアイデアを支援に生かす必要もある。こうした環境の変化に対応し、新時代の世銀を再構築するのが次期総裁の課題だろう。キム氏が「多様化する支援先と支援国の要望に効果的に応じられる機関に育てたい」というのはもっともだ。

歴代の世銀総裁は米国から起用されてきた。新興・途上国は戦後から続く慣例に不満を募らせている。オバマ米大統領が韓国生まれのキム氏を擁立したのは、厳しい対米批判をかわすためだ。

 それでも納得しない一部の国を代表し、ナイジェリアの財務相とコロンビアの元財務相(途中で撤退)も出馬した。複数の候補が戦ったのは初めてで、結果的にはキム氏が幅広い支持を得た。

キム氏は世界保健機関(WHO)でエイズ対策を率いた経験を持つ。外交交渉の手腕やマクロ経済の知識には不安も残るが、保健・医療分野の専門性を世銀の活動に存分に生かしてほしい。

 世界の多極化に即した世銀の人事・組織改革も重要だ。アジア系の総裁が初めて就任するという事実を軽くみるべきではないが、米国から選ぶ慣例を結果的には踏襲した。旧態依然の人事を繰り返すのではなく、実力本位の透明な選考に踏み出す時である。

キム氏は「世界の急速な変化に対応し、世銀グループの新たな調和を目指す」と公約した。出資比率の見直しなどを通じ、新興・途上国の発言力を高める工夫を続けなければならない。

日本は米国に次ぐ世界第2位の出資国だ。キム氏が取り組む改革を中心的に支える責務がある。

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