反米デモ 中東の不安定化を憂慮する(9月18日付・読売社説)
イスラム教の預言者ムハンマドを侮辱した映像に抗議する反米デモが、中東やアジアの国々に広がっている。
リビア東部ベンガジでは、米国領事館が襲撃され、米大使ら4人が死亡した。
デモの混乱に乗じて、武装勢力がテロを実行したとの見方も強い。
エジプトの首都カイロでは、デモ隊の一部が米大使館敷地内に乱入し、スーダンとチュニジアでも米大使館が襲われた。イエメンでは警察との衝突で死者が出た。
反米デモの波は、インドネシア、マレーシアなどアジアのイスラム国にも及んでいる。
問題の映像は、米国で作られた映画の要約版で、インターネットを通じて流れた。制作者やその意図は不明だが、宗教的対立をあおる行為だ。イスラム教徒が感情を害したのも無理はない。
だが、そうであろうと、怒りにまかせた暴力的な破壊行為は許されるものではない。
オバマ米大統領は、「われわれは他者の信仰を侮辱する行為を拒絶する」と述べた上で、「非常識な暴力は正当化できない」と米大使らへの襲撃を強く非難した。
事態が早期に沈静化することを望みたい。
懸念されるのは、過激派に限らず、中東の一般国民の間に反米感情が広がっている問題だ。
根底には、米国の中東政策への不信、不満があるのだろう。
オバマ大統領は就任後、イラク戦争によって対米感情が悪化したイスラム世界との関係改善に乗り出した。強権政治に立ち向かう「アラブの春」の改革を支持する立場を明確にしている。
にもかかわらず、米政府とは無関係の映像を契機に反米デモが広がったことは、宗教上の問題に加えて反米感情の根深さを物語っている。オバマ政権の中東政策が機能していないとも言えよう。
「アラブの春」で独裁体制が崩壊したエジプトなどの民主化は道半ばだ。それだけに、この反米デモが、中東の国々の内政にもたらす影響が気がかりだ。
中東が混乱すれば、その影響は世界に及ぶ。
米国が「太平洋国家」としていくら「アジア重視」を唱えても、相当数の兵力を中東に振り向ける事態になれば、日本の安全保障に制約が生じかねない。
政府開発援助(ODA)などで中東諸国の経済発展を支え、政情の安定に寄与することは、原油輸入の8割強を中東に依存する日本にとっても重要である。
(2012年9月18日01時24分 読売新聞)
Leave a Reply
You must be logged in to post a comment.