余録:カギの形のケーキ、米大統領の署名入り聖書…
毎日新聞 2013年10月20日 00時16分
カギの形のケーキ、米大統領の署名入り聖書、ピストルなどが米国からイラン要人へのお土産だった。ケーキの形には「米・イラン関係の扉を開く」という意味があり、聖書の最初のページには「すべての宗教は共存できる」と記されていた▲1986年11月4日、ラフサンジャニ・イラン国会議長(後の大統領)は米特使の秘密訪問について、そんなふうに語った。米レーガン政権が同年夏、断交中のイランに特使を極秘に送り込んできたが、イラン首脳は直接対話を拒否し、特使らを追い返したのだと▲だが、当時のイランは対イラク戦争(80〜88年)の真っ最中。米側の武器売却にイランはありがたく応じ、米国は米国で、その売上代金をニカラグアの親米ゲリラ組織コントラへの支援に回していたのが実態だった(イラン・コントラ事件)。秘密取引は成立したのだ▲仮にイランが直接対話に応じていれば両国関係は融和に向かったかもしれない。だが、それを喜ばぬ勢力が秘密交渉の存在をレバノンのメディアに流し、対米穏健派のラフサンジャニ氏も強硬姿勢を見せるしかなくなったようだ▲こんな意地の張り合いはもう無用に願いたい。米欧など6カ国とイランが15、16の両日行った核問題協議は、初の共同声明を出すなど良好な雰囲気だった。来月の協議で問題解決のめどが立てば米・イランの和解も現実味を帯びる▲だが、融和の空気が一転冷え込むこともある。米軍がイランの油田施設に艦砲射撃を加えたのは秘密訪問翌年のきのう(87年10月19日)だ。関係改善の重い扉はしっかり力を入れて開きたい。お菓子のカギでは甘すぎよう。
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