これまでアメリカ経済および世界経済は、インフレであることが当たり前ととらえられてきました。日本は1990年代の後半から本格的なデフレ経済に入り、それが16年以上にわたって続いてきましたが、1900年代以降、先進国でここまでデフレが長期化したのははじめてといってもよいでしょう。
エネルギー革命で、世界的にデフレ圧力が強まる
ただ、これからは日本だけでなく、アメリカも、そして世界的にもデフレ圧力が強まってきます。その根拠は、シェールガス、シェールオイルを軸としたエネルギー革命です。
この革命によって、世界でも最大のエネルギー輸入国だったアメリカが、自国内でエネルギー生産を行ない、それによって国内需要のすべてをまかなえるようになります。そうなれば、世界的にはむしろエネルギーは余剰になりますから、エネルギー価格は長い目で見ても、下落の一途をたどることになります。
この10年、消費者物価指数で見たアメリカのインフレ率は年2%前後です。この2%を分解すると何が見えてくるのでしょうか。この2%の上昇には、さまざまな製品やサービスの価格動向が含まれているわけですが、なかでもとりわけ顕著な上昇ぶりを見せたのが、主としてガソリン代、電気代、食糧費の3つでした。それ以外のもの、たとえば自動車などはほとんど上昇していませんし、電化製品や衣類などは、むしろ価格が下落しているのです。
FRBによる量的緩和が、2014年にも縮小に向けて動きはじめます。どのくらいの期間をかけて縮小させるのかはわかりませんが、金融をこのまま緩和し続けるというわけにはいきませんので、どこかの段階で必ず量的緩和の縮小を行なってきます。量的緩和の縮小というのは、FRBがこれまで刷りまくってきたお金を回収していく、ということを意味しています。そうなったときに注目したいのが、ETF市場(株価や金などの価格に連動して動く金融商品)への影響です。
ETF市場に大きな影響が及ぶ
ヘッジファンドなどの投機筋は、これまで量的緩和が継続するという見通しのもと、余ったお金によって金融商品の需要は底堅いと見て、レバレッジをかけてさまざまな金融商品に投資してきました。レバレッジというのは、外部からの借金によって投資元本を大きく膨らませ、より高い投資効率で大きなリターンを目指す投資法のことです。量的緩和によって、アメリカの金利水準は低く抑えられてきましたから、外部借入れを活用したレバレッジ投資法が、簡単に行なえる環境にあったのです。
ところが、量的緩和が縮小されると、金融商品への需要が減るのに加え、借入れの際の金利は上がり、レバレッジをかけた投資法は借入コストが重くのしかかってきます。そのため、投資ポジションも縮小していくしかなくなります。
これがETF市場に大きな影響を及ぼすのです。というのも、ヘッジファンドなどはレバレッジを最大限に効かせたうえで、原油や天然ガス、金や銀、アルミニウム、トウモロコシ、小麦、大豆などに連動するETFに投資しているからです。投資ポジションが縮小しなければならないとなれば、大量の資金が流れ込んでいた原油や天然ガス、金、銀、アルミニウム、トウモロコシ、小麦、大豆などのコモディティの価格が下落に転じることになるでしょう。なかには、価格が暴落するコモディティもあるのではないでしょうか。
将来的には、シェール革命によってアメリカでは、天然ガスだけでなく、原油の価格も大幅に下がっていくでしょう。その前に、量的緩和の縮小がETF市場を通じてコモディティの価格の下落を引き起こし、それがさらに現物の価格下落につながっていくのです。そう考えると、いつまでもインフレ経済が続くはずもなく、世界経済は徐々にデフレ経済へと向かっていく可能性が高いと思われるのです。
では、「デフレ経済は悪なのか」ということについて考えてみましょう。この10余年、デフレが続いて不景気を経験した日本からすれば、「デフレなんてとんでもない」ということになるのだと思いますが、実はデフレも決してそんなに悪いことではないのです。
株価上昇=好景気という図式が過去のものに
今のアメリカでは、国民の6人に1人が貧困層、3人に1人が貧困層および貧困層の予備軍といわれています。フードスタンプを受け取っている、貧困者世帯あるいはその予備軍といわれています。もし、シェール革命によって格安のエネルギーを使うことができるようになれば、ガソリン代も電気代も食料費も安くなるので、貧困層やその予備軍にとって生活は、かなり楽になるはずです。
特にアメリカという国は、ちょっとした移動にも自動車を使う国です。ガソリンは生活必需品であり、原油価格の上昇、下落が、生活レベルに直接、影響を及ぼします。現状、原油価格が高い水準にあり、それがアメリカ国民の生活レベルを圧迫していますから、逆に将来、原油価格の下落が進めば、生活レベルはどんどん楽になっていくと考えられます。
もちろん、エネルギー価格が下落すれば、食糧などの価格も下落していきますから、なお生活レベルは楽になっていきます。
その一方で、株価はこれまでのように上がらなくなるでしょう。前述したように、量的緩和の縮小が行なわれるわけですから、株価にとっては明らかにマイナス要因です。
ただ、「株価上昇=好景気」という図式は、エネルギー革命が進む中では、もはや過去のものと考えたほうがよいでしょう。おそらく、長い目で見れば株価が下落しても、エネルギー価格の下落によって物価全体が下落し、国民の生活レベルを下支えするという流れが当たり前になっていきます。
今のアメリカでは「インフレが善で、デフレは悪である」という見方が主流ですが、エネルギー革命が進むにつれて、そういった考えも通用しなくなります。そこではじめて、「デフレは決して悪くはない」という新常識が生まれてくるのではないでしょうか。
したがって、アメリカ経済を見るにあたっては、物価の下落は決して悪ではないという考えを頭の隅に持つようにしたほうがよいでしょう。
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