日本人にとって、3年前の東日本大震災で諸外国から受けた御恩ほど忘れ難いものはない。とりわけ、米太平洋軍がわれわれの眼前で展開してくれた、「トモダチ作戦」がいかに強烈な印象を与えたか。感激のあまり、私は産経新聞に掲載された感謝広告発起人の一人になった。自衛隊との共同作戦は、法を軽視する周辺諸国に対する抑止力を意味していた。
≪あれから3年、関係暗転?≫
ところが、今の日米関係はどうか。中国と韓国による対日宣伝戦に米マスメディアが巻き込まれ、ワシントン・ポスト、ニューヨーク・タイムズ両紙に加え、保守系紙といわれるウォールストリート・ジャーナル(WSJ)東京発の記事までが、「安倍首相はナショナリスト」だとか、「日本では右翼が騒いでいる」などと中韓両国の合唱団に参加している。日米関係は暗転したのだろうか。
混乱の根本は、オバマ政権のアジア政策が明確でない点にある。米保守系シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)のマイケル・オースリン上級研究員の表現を借りる。
「ワシントンにとって、現実の危険は、自身が張り子の虎になったように見えてしまうことだ。オバマ政権は、アジアにおける目標が何かを全く明らかにしてこなかった。それは民主主義、自由主義を広めることなのだろうか。中国の人権侵害に正面から立ち向かわず、他の民主主義国と統一行動を取らないことから見て、それが目標の上位にあるとは思えない」(2月3日付のWSJ紙)
この指摘に尽きる。オバマ大統領自身が「米国は世界の警察官にならない」と述べ、ヘーゲル国防長官が「継続的な国防費削減は短期、長期的に米国の安全保障を危険にさらす」と認めながら、国防予算に大ナタを振るっているのを見ていると、気が滅入(めい)る。
日本を含むアジアの同盟国にとって神経質にならざるを得ないのは、「新型大国関係」である。昨年6月にカリフォルニアで行われた米中首脳会談で、習近平国家主席が提案し、ライス大統領補佐官(国家安全保障担当)が11月の講演でこの関係を「機能させるよう努める」と述べ、事実上、米側が認めたように観察される。
≪同盟に匕首突きつけかねぬ≫
この言葉自体は2010年にワシントンで開かれた第2回米中戦略・経済対話で、戴秉国・国務委員(外交担当)が「ウィン・ウィンの新型大国関係」を口にし、12年2月に訪米した当時の習副主席がワシントンでの演説で明らかにした。ライス講演後も、バイデン副大統領やケリー国務長官が訪中した際に話し合っている。
問題はその内容だ。習演説は相互の理解を説いたほか、「核心的利益の尊重」も提案している。米国が軽々しくこれを認めるわけはないと信じたいが、話し合いはどの程度進んでいるのかさっぱり分からない。台湾から始まってチベット、新疆ウイグル、さらには尖閣諸島までもが「核心的利益」だと中国政府当局者が勝手に発言するに至っては論外だろう。
中国としては腰の定まらないオバマ政権や中韓両国と対立している日本の弱点に狙いをつけ、大国同士で大きな国際的枠組みをつくってしまおうとの巧妙な戦略、戦術に出ているのかもしれない。仮に米国がこれに乗れば、日米同盟に匕首(あいくち)が突きつけられる。
同盟国の深刻な懸念は、フィリピンのアキノ大統領が2月4日付のニューヨーク・タイムズ紙で行ったアピールがいい例だ。米政府の助言もあって12年にスカボロー礁から軍を引き揚げた後、中国軍が居残り、実効支配を進めたというのである。大統領は、ヒトラーの要求に応じてチェコスロバキア(当時)のズデーテンラントをチェンバレン英首相が放棄したことが第二次大戦につながったと、今の状況をなぞらえている。
≪雨のち晴れのラッセル証言≫
しかし、うっとうしかった私の憂いもやや晴れてきた。ラッセル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)が、3月4日の上院外交委員会アジア太平洋小委の公聴会で証言し、日米、米韓同盟を中心とした東アジア政策を明確に述べたからである。中国に対抗する同盟ではないと強調しているものの、米日韓3カ国の紐帯(ちゅうたい)が意味するところは明らかであろう。尖閣についても威嚇、強制、力の行使には断固反対する、と明言した。
日米同盟で引用されたのは「トモダチ作戦」である。米軍と自衛隊の共同作戦は昨年11月にフィリピンを襲った大規模台風「ハイエン」被害救援で活用され、米海兵隊の新型輸送機MV22オスプレイが海自の護衛艦から飛び立つ、異例の相互運用性(インターオペラビリティー)が成功した。
来月、オバマ大統領は日本をはじめ韓国、フィリピン、マレーシアの東・東南アジア4カ国を訪問する。いずれも中国と領土問題を抱えている国々だ。同盟関係をオバマ政権が改めて重視する姿勢に転じたと見てよさそうだ。安倍晋三首相も真剣に対応してほしい。歴史認識は別の話である。(たくぼ ただえ)
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