ロシアのクリミア編入 国際秩序踏みにじる暴挙(3月20日)
米英ソの巨頭が集い、第2次大戦の戦後処理を話し合ったクリミアを舞台に、冷戦時代をほうふつとさせる世界的緊張がもたらされている。
プーチン大統領がウクライナ南部クリミア半島のロシアへの編入を宣言した。国際法を犯し、ウクライナの主権を蹂躙(じゅうりん)する一方的な行動である。
ロシア軍とみられる武装組織が半島のウクライナ軍基地を襲い、ウクライナ側に死傷者が出ている。軍事的緊張を高める行為は一切認められない。
力ずくで領土を拡張しようとするロシアの姿勢は孤立を深めるだけだ。プーチン氏はクリミア半島から速やかにロシア軍を撤退させ、編入を断念すべきだ。
オバマ米大統領は来週オランダのハーグで開かれる核安全保障サミットの場で先進7カ国(G7)首脳会合を開くよう呼びかけた。
G7は結束してロシアを協議のテーブルに着かせ、平和解決を図る道筋を見つけてほしい。
■国際法違反は明らか
プーチン氏は演説でクリミア半島について「ロシア国民の心の中で切り離せない祖国の一部だ」と述べ、編入の正当性を強調した。
クリミア半島は旧ソ連時代の1954年、当時のフルシチョフ第1書記がロシア領からウクライナ領に移管した。住民の6割はロシア系でロシアへの親近感が強い。
だが、それと編入は別次元の話だ。ロシア軍が半島を掌握する中、ウクライナをはじめ国際社会の反対を無視して強行された住民投票でロシア編入が承認されたといっても認められないのは当然だ。
国連憲章は武力による威嚇やその行使を禁じている。ロシアとウクライナは友好条約で、双方の領土保全と国境不可侵を確認した。ウクライナ憲法も分離・独立には国民投票が必要としている。
編入を合法とする強弁が国際社会の理解を得られるはずはない。
このような力の論理を許しては、軍拡を進める中国の動向にも影響を及ぼしかねない。
欧米対中ロという「新冷戦時代」に突入する愚は避けるべきだ。国際社会の努力が望まれる。
■G7の結束が不可欠
ロシア政府系機関の世論調査では、クリミア編入を91%が支持するなど国内世論は沸いている。
プーチン氏の政治手法で指摘されるのが、ポピュリズム(大衆迎合主義)とナショナリズムへの傾斜だ。経済成長が鈍化する中、反プーチンデモ対策として年金など社会保障費をばらまいた。
一方で民族主義の台頭による政情不安にも頭を悩ませてきたが、今回の行動は国内のナショナリズムを高揚させた。プーチン氏の支持率は先週、2012年の大統領再登板後、初めて70%を超えた。
「ソ連崩壊は20世紀最大の地政学的悲劇」と述べるプーチン氏は大国再生を目指す。長期政権に向け、国内の求心力を高めるためには欧米との対立も辞さないのだとすれば危険な賭けと言えよう。
問題は、さらなる経済制裁を検討するものの有効な手だてを講じられない欧米諸国にもある。
イラク、アフガニスタンでの戦争で疲弊した米国は武力行使を望まない。ロシアから天然ガスを輸入する欧州連合(EU)内でも制裁をめぐっては温度差がある。
G7を中心に結束を固める必要がある。欧州安保協力機構(OSCE)監視団の派遣も急がれる。
プーチン氏はウクライナがEUとの間の緩衝地帯であり続けることを望んでいるはずだ。交渉の余地は十分あるのではないか。
■北方領土への影響も
安倍晋三首相はロシアに対し「ウクライナの主権や領土の一体性を侵害する」として非難した。査証(ビザ)緩和手続きの協議停止などに続く追加制裁も検討する。
すでに資産凍結や渡航禁止などに踏み込んでいる欧米に比べれば弱腰な対応だ。日ロ2国間関係への影響を考えてのことだが、手ぬるいのではないか。
北方領土交渉への影響は避けられまい。領土問題と「車の両輪」をなしてきた経済協力の進展は困難にならざるを得ないからだ。
1945年、当時のソ連は日ソ中立条約を破って対日参戦し、北方四島を占領して日本の住民を追い出した。クリミア編入も、国際法を無視し武力を背景に領土をわが物にする点では同じ構図だ。
ロシアによる北方領土の実効支配を非難してきた日本としては到底見過ごせない。首相は毅然(きぜん)とした態度で臨まなければならない。
法と正義に基づく国際秩序を守る立場から、G7各国と協調しロシアに圧力を強めるべきだ。
ウクライナ情勢をめぐって国際関係は今後複雑化することが必至だ。外交力を駆使し、欧米諸国とは違う視点で役割を果たすことも重要である。
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