Back to Square One with TPP: No Need To Rush a Settlement

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TPP仕切り直し 決着を急ぐ必要はない

日米共同声明はきのう、オバマ大統領の離日直前に発表された。焦点の環太平洋連携協定(TPP)交渉は大筋合意に至らなかった。声明に「前進する道筋を特定した」と記していても、仕切り直しには違いない。

米国にとってTPPは本来、新たな自由貿易圏をつくることで中国をけん制する狙いがある。だが、日本としてはTPPに参加しなくても、自由貿易を拡大する手段はある。しかも、米国の信認が低下する中で、安全保障とセットで考える必要はどこまであるのだろうか。

オバマ氏はおとといの首脳会談後の記者会見で「尖閣諸島は日本の施政権下にあり、日米安全保障条約第5条の適用対象だ」と述べ、安倍晋三首相の顔を立てたとみられる。これをてこに、TPP交渉で今後も日本に譲歩を迫るに違いない。

オバマ政権は、秋に米議会中間選挙を控えている。雇用が大きな争点で、日本をはじめ とする海外市場の開放を雇用拡大の起爆剤にしたいところだ。日本に譲歩できる余地は小さい。

また、大統領に議会から通商交渉権限が委任されていない。批准までには関係業界が議 会を突き上げ、議会が大統領を突き上げることも予想される。麻生太郎財務相がきのうの 閣議後の記者会見で「(オバマ氏が)国内で全部まとめきれる力は今ないだろう」と述べ たのも一面を突いている。

交渉は難航している。日本が「聖域」とする農産物の重要5項目や、米国が日本製自動車に課す関税の扱いについては、簡単に溝が埋まりそうにない。

5項目の中でも特に豚肉の扱いは隔たりが大きい。日本は安い豚肉ほど関税率が高くなる「差額関税制度」を導入し、輸入に歯止めをかけてきた。牛肉以上に大きい市場開放の影響が懸念される。税率引き下げを要求する米国に対し、日本は安易な妥協はできないはずだ。

また、米国は日本に自動車の安全基準の緩和を強く求めている。日本市場で米国車が売れない要因とみているようだが、これも多くの国民の生命に関わる制度の問題だけに譲れまい。

オバマ氏に同行する米政府高官がきのうソウルで、5項目をめぐって「重要な節目」を 迎えたと明言した。品目ごとに関税撤廃の有無や撤廃までの期間を特定する作業を進めた という。

だが、これでは何がどう進展したのか、日本国民にはまるで分からない。甘利明TPP担当相も記者団に「もう一回、担当相をやりたいかと聞かれれば、やりたくない」と交渉の難しさは吐露しても、交渉内容を一切明らかにしていない。

TPP交渉は決着を急ぐ必要はない。冷却期間を置き、米中間選挙の結果を見てからでも遅くないとの見方もあろう。日本の農業対策を含めて、冷静な判断ができるのではないか。

ただ、5月にベトナムで開かれる首席交渉官会合では主張すべきことを主張すべきだ。 その上で国民的な議論を保障する情報開示をしてほしい。民主党など野党5党はきのう、TPPなどの通商交渉の状況について、国会への定期的な情報開示を政府に義務付ける法案を衆院に提出した。秘密会形式ではあるが、議会での議論も経ていないものを国民も受け入れられまい。

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