Obama Revives the Focus on Asia

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アジア重視に魂入れたオバマ氏 平和安全保障研究所理事長・西原正

2014.5.9 03:16

 4月末のオバマ米大統領のアジア歴訪はアジア太平洋地域での同盟を強化し、拡張主義政策をとる中国を牽制(けんせい)するのに極めて有益なものとなった。今後の日本の課題は、オバマ政権のアジア重視(リバランス=再均衡)政策をいかに効果的に支えていくかである。

 ≪対中抑止力増した日米同盟≫

 尖閣諸島が日本の施政権下にあり、日米安全保障条約第5条の適用範囲にある、とオバマ大統領が明言したことは、当然のこととはいえ、日本の対中外交を有利に支える非常に重要な発言であった。同じ発言はすでに、米国務長官、国防長官、また議会指導者によってもなされてきたが、やはり大統領の発言となると重みが違う。

 米国が「最新鋭の軍事アセットを日本に配備してきており、日米安保条約の下でのコミットメントを果たすために必要な全ての能力を提供している」と力強く同盟上の誓約を共同声明で確認したことは、中国への抑止になる。日米両国が声明でクリミアを武力で併合した「ロシアの違法な試み」を非難したことも、同様のことを尖閣などで試みようとしている中国への牽制となった。韓国からマレーシアに飛んだ米大統領専用機が、中国が一方的に設けた防空識別圏を無視した意義も大きかった。

 オバマ大統領が今回、東南アジアを訪問したことは、リバランス政策を推進するうえで大きな意味があった。米大統領としてマレーシアを48年ぶりに訪問したオバマ氏は、3月末以来のマレーシア航空機の行方不明事件にも助けられて両国関係を大いに改善した。

 マレーシアは、1974年に東南アジア諸国連合(ASEAN)の中で真っ先に中国との関係正常化を図った国である経緯から、対中関係を重視しつつ裏で米国との軍事協力関係も進めてきた。米艦船のマレーシアへの寄港、同国軍将校の米国での軍事教育、マレーシアによるジャングル戦闘訓練地の提供などが実施されてきた。

 ≪米マ、米比関係も新段階に≫

 先の航空機行方不明事件では、マレーシアと中国は、相手の情報発信の不手際を批判し合い、関係を一挙に悪化させてしまった。こうした中で、オバマ大統領はナジブ政権の対応措置を弁護したうえで、「包括的パートナーシップ」に関する共同声明を発出した。そこでは、南シナ海における航行の自由、領有権解決に当たっての威嚇、強制、武力行使などの回避、行動規範宣言の早期規定化などを明記し、米国とマレーシアが対中批判の姿勢を取ったのである。

 同様に、オバマ大統領は最後の訪問地フィリピンとの間で、米軍の定期的派遣、軍事施設の共同使用などを明記した画期的な「拡大軍事協力協定」を締結した。中国の南シナ海での勢力拡大を視野に入れたものであるが、オバマ大統領は、1951年の米比相互防衛条約に従ってフィリピンを防衛すると明言した。今後、米国は、艦艇派遣や戦闘機、無人機、高性能レーダー配置などで、中国の動きににらみを利かせるであろう。

 オバマ大統領は2011年11月にオーストラリアでリバランス政策を打ち出して以来、ダーウィンへの米海兵隊派遣、在沖縄海兵隊の一部グアム移転以外は目立った手を打ってこなかった。しかし今回のアジア歴訪でやっと政策に中身を入れ充実化させ始めた。特に尖閣防衛宣言と事実上の米軍フィリピン再駐留の意義は大きい。

 ≪背景に米国の中国政策転換≫

 これらの動きは、昨年11月に訪中したバイデン副大統領が、中国による防空識別圏設定に関して中国要人と議論したのを受けて、副大統領の帰国後、オバマ政権の外交・国防チームが中国の脅威に厳しく対応すると決定したことの証左である。それは、今年1月末のメディロス国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長、2月初めのラッセル国務次官補(東アジア・太平洋担当)の議会証言での厳しい対中批判にも表れていた。

 他方、オバマ大統領が示した力強い同盟国防衛の約束が、今後削減される米国防予算の下で本当に守られるのか疑問は残る。したがって、日本はまず米国の役割を補完する意味でも、日米韓協力体制の構築に貢献すべきである。今回のオバマ大統領の訪韓でも、韓国防衛のための戦時統制権を予定通り15年に米軍から韓国軍に移管するかどうかは、明確にならなかった。米韓同盟は両国首脳の公的発言に見るほどに強固ではない。

 尖閣に関しては、漁民に偽装した中国民兵が上陸しても武力攻撃ではないグレーゾーン事態に当たり、自衛隊は出動できない。そんな現行自衛隊法を一刻も早く改正するか、領域警備法を制定する必要がある。日米安保条約第5条の日米「共同防衛」作戦は尖閣防衛に関する限り個別的自衛権行使の問題であり、集団的自衛権の議論に優先させるべきではないか。

 日本はフィリピンに巡視艇を提供することにしているが、同国が中国との領土紛争をめぐり国際海洋法裁判所へ行った提訴を積極支援することも必要だ。日本は豪州と協力して対比支援をし、リバランス政策に貢献すべきである。(にしはら まさし)

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