TPP Negotiations: No Need to Fuss over a Summer Agreement

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TPP交渉/夏の合意こだわる必要ない

 関税をめぐる物品市場アクセス分野をはじめ、妥結に向け難題を協議する「道筋を決定」し7月に首席交渉官会合を開く、とうたう。そして、その会合が「大きなヤマ場」というのが、甘利明環太平洋連携協定(TPP)担当相の「解説」である。

 シンガポールで開かれたTPP交渉閣僚会合がまとめた共同声明は、夏に大筋合意を目指すとのメッセージと受け取れる。

 日米は「交渉は勢いづいた」(フロマン米通商代表)と、進展を強調した。確かに著作権や新薬データの保護期間を含む知的財産分野でも一定の歩み寄りは見られたものの、本格折衝は持ち越された。難航分野での対立解消は容易なことではない。

 夏までの大筋合意を望むのは米国である。11月の議会中間選挙を控え、オバマ政権は輸出や雇用の増加につながる外交成果としてアピールしたいからだ。共同声明には、その意向が働いたとみられる。

 だが、そのことは、外交成果に乏しく支持率も低迷するオバマ政権の弱体化、求心力低下が著しいことの裏返しである。そのような政権との約束が果たして守られるのかどうかについて疑問符が付く状況にもある。

 大筋合意に向けた交渉の「進展」は、コメを含む重要5農産物の関税維持を目指す日本にとっては「譲歩」を意味する。

 だが、そうした進展も譲歩も農業が基盤の地方は望んではいない。米国にすりよって、急ぐ必要はない。大切なのは合意の時期ではなく、交渉の中身だ。拙速な妥協は許されない。

 今回の閣僚会合で日米は、4月に農産物の市場アクセスをめぐって双方が譲歩し進展したとされる両国協議をテコに、全体交渉の加速を狙った。だが、「推進力」とはならなかった。

 なぜなら、日米が大筋合意に至っておらず、焦点とされた牛・豚肉の関税率を含め、アクセスの仕組みについて日米から具体的な言及がなかったからだ。

 米国内では、特に政治力が強い豚肉業界が関税撤廃を求める強硬姿勢を崩しておらず、国内調整が遅れている。その圧力を受け米政府が再び強硬に転ずれば、日米協議は仕切り直さざるを得なくなる。畜産業界は議会にも影響力を行使しており、大筋合意に至る道はなお険しい。

 選挙に絡むそうした事情などから、米議会は交渉を一任する「貿易促進権限」をオバマ政権に与えていない。権限がないまま交渉が妥結したとしても、議会の反対で覆される恐れがある。

 米国が譲歩し合意しても、ほごにされかねない。そんな懸念が参加国にあることも交渉全体が勢いづかない要因とされる。

 4月の日米首脳会談を受け、麻生太郎財務相が「オバマ(大統領)が国内で全部まとめきれる力は今ないだろう」と、中間選挙まで結論を出すのは難しいとした見方は外れてはいまい。

 5農産物をはじめ、国会決議が求めた「聖域」を守る。そのことをあらためて肝に銘じつつ、米国の政治状況をじっくりと見極めなければならない。

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