4月29日付Wall Street Journal紙で、Richard N. Haass米外交問題評議会会長が、「混沌を弄んでいる米外交:無能さの最も目立つケースはシリア」との論説を寄せ、オバマ外交を批判するとともに、今後の政策について提言しています。
すなわち、米外交は混乱している。米外交の指導概念は、オバマ1期目のアジアへの回帰、中東重視の転換であるべきである。オバマ政権はこの概念の実施で欠けるところがあった。最近のオバマのアジア歴訪はこれまでの努力不足を埋め合わせたとは言えない。
オバマ政権は、イラクからもアフガンからも撤退しようとしている。しかし、オバマ政権は、引き続き中東での野心的な目標、レジーム・チェンジを、ムバラク、カダフィ、アサドの例などに見られるように追求している。しかし、指導者を追い出すのは容易ではない。その後に米国の好みに合う安定した政府を作ることは大変難しい。その結果、米国は目標から後ずさりし、無能に見えるか、あるいは目標達成のために巨大な資源を使うかの選択に直面する。
オバマ政権は大体、第1の選択、すなわち無能に見える方を選んできた。シリアが良い例である。アサドはやめるべきと言いつつ、そのためにほとんど何もせず、反政府派への軍事支援は最小限しかしなかった。化学兵器使用後も、武力行使を避け、米国の信頼性への疑念を広め、反政府派の能力を弱めた。中東でテロリストの足場は拡大している。
オバマ政権のイスラエル・パレスチナ紛争解決への努力も正当化しがたい。最近の話し合いの決裂の前にも、この紛争は解決に熟しておらず、もはや中東情勢の中心課題ではない。パレスチナ国家樹立は、シリア、エジプト、イラク問題を解決しない。
オバマ政権は、イランの核問題では、イランを交渉に向かわせた制裁強化をした。これは称賛されるべきである。今後は、良い合意を作るという課題がある。
これらの外交努力は時間を要する。国務長官の時間は限られている。アジアでは、日中韓などとの定期的協議、危機防止、危機管理がいる。もっとそちらに時間を割くべきである。
米国は欧州への関与も増大すべきである。クリミア、ウクライナへの対応がある。
米国の社会・経済の強靭さは国家安全保障政策を代替するのではなく、その中心にある。エネルギー開発、移民改革、インフラの近代化、自由貿易などに取り組む必要がある。
オバマ政権は、単に米国の力の強化、孤立主義に対する国際主義を確保するのみならず、他国にメッセージを送るべきである。ポスト・アメリカの世界への動きがあるが、これは米国の利益に沿わない混乱した世界になろう、と論じています。
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ハースは米外交評議会会長の肩書が示すように、今や米国の外交界の重鎮です。多くの人が彼の意見を尊重します。
ハースがここで述べているオバマ政権の外交批判は的を射ています。
シリアでの化学兵器使用はレッドラインと言いながら、使用された時に何もせず、米国の信頼性を大きく傷つけました。中東ではレトリックとしての政策目標と、そのために使う手段や力との間に懸隔がありすぎて、米国が無能に見えることが多いのもその通りです。
そういう中で、アサドやプーチンが米国のことを軽く見ていることは容易に想像されます。米国の信頼性が低下した世界は、秩序なき世界になる危険があります。
米外交界の重鎮であるハースが、アジア重視を政策概念として良いと主張し、確実に実施するのが肝要であると述べているのは、歓迎すべきことです。中国をどうするかが今後の世界にとり大問題との意識があるのでしょう。アジアでは米国がその信頼性を保つように是非してほしいと思います。
ハースは、中東和平について、ケリー長官の努力を正当化できないと言っています。ハースは、かつて、紛争解決について、ripeness theoryというものを唱導した本を書いています。要するに、紛争は解決のために機が熟した状況で解決に至る事を、諸事例を引用して説明した名著です。そういう彼から見ると、ケリー長官の中東和平仲介はドンキホーテ的試みに見えたのかもしれません。
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