ナショナリズムとシーレーン
南シナ海で中国を動かす2つの力
米国の関与は? 予断許さぬ軍事バランス
米外交評議会のエコノミーとレヴィが、5月16日付ワシントン・ポスト紙掲載の論説で、南シナ海での最近の中国の行動に対して、米国がレトリックだけでなく実際の行動を以て対応しなければ、米国の信頼は損なわれることになる、と述べています。
すなわち、ベトナムが領有権を主張している水域での、中国による石油掘削には、単なる資源獲得のみならず、より本質的な二つの力が働いている。一つは、ナショナリズムである。掘削は、ベトナムの海岸から120海里、ベトナムの経済水域(EEZ)内にある、パラセル諸島近海で行われている。中国は、歴史的利用と実効的な主権の行使に基づく島への領有権を主張し、パラセルを1974年から占拠している。パラセルから後退することは中国の名声に打撃を与えるが、支配の強化は国内でのリーダーシップを強化することになろう。
二つ目に、中国指導部は、南シナ海のシーレーンを支配したいという動機も持っている。年間5兆ドル以上の貿易品が南シナ海を通過し、それには、世界の海上輸送による石油貿易の約3分の1、中国の原油輸入の4分の3以上が含まれる。中国海軍は、中東の重要なシーレーンで米国の優位に挑戦したり、それどころかマラッカ海峡を支配する力もないが、南シナ海で海軍を行動させることにより、米国が中国向けの供給を阻止出来ないという、より大きな自信が得られる。
さらに、中国は、軍の行動を原油開発という商業的動機で隠すことにより、反対を弱めようとしたのかもしれない。そうであるならば、その策略は、功を奏していない。中国の動きは、地域の中での強い関係が外交政策の最優先事項である、との中国の主張を損ねている。南シナ海におけるベトナムとの資源共同開発に関するワーキング・グループの対話への、中国のコミットメントにも疑問符が付く。
米国は、領有権紛争では特定の立場を取らず、双方に平和的解決を求める、と言ってきた。これは十分ではない。米国は、中国のブラフに挑戦すべきであり、真の利害関係を明確にすべきである。米国とASEANは、係争領域における一方的な領有権主張を認めることを拒否するという点で、統一戦線をとるべきである。
さらに重要なことは、米国は、レトリックとしての立場に生命を与える用意をしなければならないということである。米国は、ベトナムを防衛する条約上の義務を負わないが、米国の対アジア・リバランスは、米国が太平洋の安定の主たる保障者の役割を果たすのが前提である。中国の行動は、それに対する挑戦である。
ベトナムは、紛争の平和的解決へのコミットメントを繰り返し言っている。中国がそれに応えないならば、米国は、海軍のプレゼンス増大を通じて、ベトナムを支持する用意をすべきである。これは、ワシントンに、中国の能力を見極め、事態の鎮静化に役立とう。CNOOCの米国における活動規制といった、他のオプションも考慮し得る。米国の言葉が行動を伴わなければ、地域の安定と平和を支持するという米国の約束への信頼は損なわれるであろう、と論じています。
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エコノミーは米外交評議会の中国専門家、レヴィは同じくエネルギー問題の専門家です。レトリックだけでは不十分であり、目に見える行動をとるべきであるとの趣旨は適切であると思います。アメリカが今のままでは駄目だという、焦りを感じさせる論説と言っても良いでしょう。
ただ、論説が提案している、東南アジアと統一戦線を達成、維持し、米海軍力の増強により強い姿勢を示すことで、中国に対する圧力とする、というのは、いずれも正攻法ですが、言うべくして簡単に実現できていないのが現状です。確かに、ASEANの問題意識と結束は、高まってはいます。しかし、米国はそれを積極的に後押しするチャンスを失している感があります。
海軍力の増強と配備は、もとより必要ですが、米国内の予算上の制約は、外部からは如何ともし難いものがあります。それに加えて、過去30年間の中国の防衛力の急激な増加の蓄積により、南シナ海の軍事バランスも予断を許さないものがあるようです。
近年の中国の第四世代機の急増により、米空母機動部隊だけで南シナ海の制空権を維持できるかどうか、疑問符が付き始めています。特に、潜水艦戦力となると、日本の対潜哨戒機能なしに、東シナ海、南シナ海の米艦船の安全が確保されることが困難であるような軍事バランスとなっていると思われます。集団的自衛権の行使による、シーレーン防衛が、理論の問題でなく、必要不可欠となって来ています。
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