A Republican Victory in the US Midterms Is a Plus for Japanese Stocks

<--

米国の中間選挙と株式市場

共和党勝利が日本株にプラス

門司 総一郎

2014年9月17日(水)

 11月4日に予定されている米国の中間選挙は今年残された最大の政治イベントです。大統領は替わらないので政策の方向性が大きく変わることはありませんが、それでも選挙結果次第で修正を余儀なくされることはあります。今回はこの中間選挙が経済や株式市場に与える影響について検討します。

 ところで米国では大統領選を起点とする選挙のサイクルと株式市場の間に強い規則性が観察されます。本題に入る前にこの規則性を紹介します。

大統領選前年の米国株は強い

 米国には「大統領選の前の年の米国株は強い」との有名なアノマリーがあります。「アノマリー」とは理由ははっきりしないものの、よく起こる事象のことです。

 各年を大統領選の年、その翌年、その翌年(中間選挙の年)、その翌年(大統領選の前年)の4類型に分類し、それぞれの類型ごとにダウ工業株30種平均(以下ダウ平均)の暦年の上昇率を平均すると、平均上昇率が最も高いのが大統領選の前年です(表の最上段)*1。確かに大統領選の前の米国株は強いといえます。

*1:ダウ平均の算出開始は1896年5月。ダウ平均の年間上昇率を算出することができる1897~2013年の期間で平均上昇率を計算した

(図表1)大統領選サイクルとダウ平均年率平均上昇率

出所:ブルームバーグなどより大和住銀投信投資顧問作成、配当は考慮していない

 もっとも最初から大統領選前年の米国株が強かったわけではありません。1897~1931年までの平均では中間選挙の年に次いで弱い方から2番目です(表の中段)。逆に1932年以降に限れば平均上昇率は16.2%。強さは一段と顕著になります。

 平均上昇率が高いだけではありません。1932年以降の大統領選の前年で、ダウ平均が年間で下落したのは第二次世界大戦が勃発した1939年だけ。ブラックマンデーがあった1987年ですら年間で2.3%上昇しました。大統領選の前年の米国株はハイ・リターンであるにもかかわらずロー・リスクであるわけです。1932年の前と後で一体何が変わったのでしょうか?

(図表2)大統領選前年のダウ平均上昇率

出所:ブルームバーグなどより大和住銀投信投資顧問作成、配当は考慮していない

ケインジアン政策が大統領選前年の米国株を押し上げ

 大恐慌のさなかの1932年に行われた大統領選では民主党のフランクリンン・ルーズベルト候補が共和党の現職ハーバート・フーバー大統領に勝利しました。ルーズベルト新大統領は就任後直ちに公共事業や銀行救済などのいわゆる「ニューディール政策」を打ち出し、これにより米国経済は改善に向かいます。

 それまで米国の経済政策は「民間のことは民間に任せる」など政府の関与を否定する自由主義的なものでしたが、ニューディール政策により「政府が積極的に関与する」「不況の時は政府が景気を支える」といったケインジアン政策が政府に持ち込まれることになりました。

 このケインジアン政策が、1932年以降「大統領選前年の米国株は強い」とのアノマリーが定着した理由と考えています。政権は景気が良い状態で大統領選を迎えたい。そのためには、直前に景気対策を打っても間に合わないので、大統領選の前年から景気対策を打つことになる。これを好感(期待)して米国株が上昇するといった仕組みです。

 来年(2015年)は大統領選の前年に当たるので、経験則的には米国株は強いと期待できるところです。

焦点は共和党が上院で過半数を奪回するか

 いよいよ本題です。現在の連邦議会は上院では民主党が多数、下院では共和党が多数と、いわゆる「ねじれ」の状態です。中間選挙では、下院で共和党が過半数を維持することが確実視されているので、上院で共和党が過半数を奪還できるかどうかが焦点となっています。

(図表3)米議会の現有勢力

出所:米上下院資料より作成、上院の民主党は民主系無所属2名を含む

 各種の世論調査に基づいて選挙結果を予想する米国のサイト、リアル・クリア・ポリティクスは、上院について民主党が45議席、共和党が45議席、不明が10議席と予想しており全くの互角です(9月10日時点、非改選議席を含む)。

 中間選挙では野党が議席を伸ばすパターンが多く見られました。今回はこれに加えて、共和党に追い風になっているのがバラク・オバマ大統領の不人気です。調査会社ギャロップの世論調査によればオバマ大統領の支持率は40%、不支持率は53%。支持率は過去最低タイです(9月1~7日調査)。

 医療保険制度改革(オバマケア)は昨年ようやく実施にこぎつけたものの、国民の間では不評。移民制度改革や銃規制などほかの看板政策は共和党の反対でほとんど進んでいません。

対外的にもシリア、ウクライナ、ガザなどの地域紛争においてリーダーシップを発揮できず、米国の威信低下を招いた。これでは不人気も仕方ないでしょう。ただ共和党を積極的に支持する向きも少ないので、上院では接戦になっています。

 民主党が上院の過半数を維持すればこれまでと変わりはありません。しかし共和党が上下院とも多数を握ることとなれば、米国の政治や政策に変化が出てくると予想されます。ここからは共和党勝利の場合に予想される変化と、それが景気や株式市場に与える影響について考えてみます。注目しているポイントは以下の3つです。

「決められない政治」の解消

「内向き」から「外向き」への対外政策の変化

環太平洋経済連携(TPP)交渉

米国版「決められない政治」の解消

 「決められない政治」は日本の専売特許ではありません。米国の政治もまた決められない政治と化しています。前述のようにオバマ大統領の看板政策は行き詰っており、一度はやると言った昨年のシリア空爆も実行できませんでした。昨年10月には、与野党の対立から暫定予算が成立せず、政府閉鎖が発生しました。これは決められない政治を示す最たるものです。

 米国では大統領の権限が強く、「何事もスピーディーに決まる」との印象がありますが、これは間違いです。むしろ日本以上に「決められない政治」と化しやすい仕組みといえます。

 米国の政策決定プロセスは、まず議会が法案や予算を決定(そのためには上院と下院が合意する必要があります)。それを大統領が承認(あるいは拒否)するものです。したがって議会の決定がなければ物事が進みません。上下院がねじれて議会が機能不全に陥っているのが決められない政治の一番の理由なのです。

 日本であれば与党が衆院で3分の2の議席を有していれば衆院のみで法律を成立させることが可能です。また予算についても衆院の優越が認められています。しかし、米国にそうした制度はありません。また議会の解散がないので、大統領が解散を武器に妥協を迫ることもできません。

 オバマ大統領にリーダーシップがないことも理由の一つです。支持率が高い大統領であれば、与野党の協議を取り持ち、妥協を促すこともできますが、今のオバマ大統領にそうした力はありません。

 しかし共和党が上下院両方を制すれば議会の意思決定については問題がなくなります。大統領は民主党なのですんなりとはいかないものの、今までに比べると落としどころを探すことがかなり容易になるでしょう。

 これまでの与野党対立の元凶であった共和党の保守強硬派、いわゆるティーパーティーが予備選で勢力を減らしていることも好材料です。共和党内部で穏健派の発言力が高まることからも、「決められない政治」の解消に向けて米国が一歩踏み出すことができると考えています。

 足元を見ると、政治が空転していても米景気は好調、米国株は上昇しています。それでも政策面での不透明感が、企業が対しては設備投資やM&Aを抑制する要因、個人に対しては消費を抑制する要因になっている部分はあると思います。

 上下院のねじれが解消することで政治・政策面での不透明感が薄らげば、その分、抑制要因が取り除かれることになります。それは景気や株式にとってプラスとなるでしょう。

「内向き」政策から「外向き」政策へ

 オバマ政権において米国の対外政策は「内向き」色を強めました。2011年にイラクからの米軍撤退が完了。その後もシリア、ガザなどの地域紛争に積極的に関与しようとはしませんでした。アジアでも中国の進出に明確な姿勢を示すことはありません。これらの内向き政策は、アフガニスタン、イラクと長引く海外派兵から生じた国民の厭戦気分を反映したものです。

 しかし最近は内向き姿勢に変化が生じています。イラクでイスラム教スンニ派の過激派組織「イスラム国」の拠点を空爆したことに続き、ソマリアでもアルカイダ系のイスラム過激派組織アルシャバブを攻撃、指導者を殺害しました。さらに現在は「イスラム国」掃討のための有志連合を呼び掛けています。

 ここに来てオバマ大統領が「内向き」から「外向き」に転じたのは、共和党やメディアだけでなく、国民の間でもオバマ大統領の慎重な姿勢に批判が強まったためです。最近のワシントン・ポストとABCによる世論調査では、イラクでの「イスラム国」空爆を支持する回答が71%、シリアへの空爆拡大への支持は65%でした。一方オバマ大統領が外交問題で「慎重すぎる」との回答は53%です。

 対外強硬派が多い共和党が過半数を獲得すれば、議会からオバマ大統領に対して、より積極的に海外の問題に関与するように圧力がかかると思われます。米国に以前のような力がないことは明らかですが、それでも「イスラム国」に対する有志連合の呼びかけに見られるように、リーダーシップをとれるのは米国しかありません。

 米国の外交政策が「内向き」から「外向き」に一段とシフトすれば、地政学リスクの拡大は抑制されることになると見ています。これは景気や株式には上昇要因、逆に原油価格には下落要因と予想されます。

共和党勝利でTPP交渉が進展

 最後になりますが、日本への影響の観点から注目されるのがTPP交渉です。元々「中間選挙前の大筋合意は無理」と言われていたので、選挙が終われば交渉は再度進展すると見ていました。加えて共和党が中間選挙で勝利すれば、交渉がスピードアップする可能性があります。

 小さな政府を標榜する共和党には自由貿易を支持する議員が多く、労働組合を支持基盤とする民主党よりもTPPには前向きと言われます。これが共和党た勝利した場合にTPP交渉が進展すると見込む理由です。

 特に重要なのは大統領貿易促進権限(TPA)の付与です。米国では議会が、他国と通商協定を結ぶ権限を有しています。このため、政府が他国と通商協定をまとめても、議会が認めない条項があれば、それを修正するために、他国と再度協議しなければならなくなるリスクがあります。

 しかし大統領が事前に議会からTPAを得ておけば、議会は個々の条項について口をはさむことができなくなるので、他国は安心して米国と交渉できます(議会の権限は協定全体の批准のみになる)。

 オバマ大統領は議会にTPAの付与を求めていますが認められていません。抵抗しているのは野党共和党よりも、むしろ与党民主党の議員です。

 TPAが認められていないため他国が米国との交渉に及び腰になっていることが、TPP交渉が進展しない一因との指摘もあります。野党ではあるものの、共和党が上下院両方で過半数を獲得した方がTPAの付与が期待でき、TPP交渉が進展する可能性が高まると見ています。その場合、景気や株式、特に日本株にとってはプラスに働くと考えられるでしょう。

 以上、中間選挙で共和党が勝利した方が、米国や日本の景気や株式にとってプラスと考えています。

About this publication