Airstrikes Aren’t Enough: The US Risks a Vicious Quagmire Engagement With IS

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出口戦略なき空爆ではイスラム国を倒せない

米国への憎しみを煽り泥沼の戦いを招く危険性が高い

9月23日、米軍はイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」を標的に、シリア領内で空爆を開始した。作戦にはサウジアラビアほか中東の5カ国も参加したという。F22ステルス戦闘機が戦闘に初参加したほか、F18空母艦載機、B1爆撃機による空襲に加え、洋上に展開した艦艇からも巡航ミサイル「トマホーク」を発射し、イスラム国が本拠を置くシリア北部ラッカなどを攻撃した。

出口戦略なき愚行を繰り返す?

 米国のバラク・オバマ大統領は空爆実施後、ホワイトハウスで「テロリストの安全な避難場所を許容しない」と声明を読み上げた。また「米国単独の戦いではない」と述べ、有志連合を通じた多国籍の軍事行動であることを強調した。

 オバマ大統領はこれまで、ジョージ・W・ブッシュ前大統領が実施したテロとの戦いを「出口戦略なき愚行」と非難してきたが、今回の作戦に出口戦略はあるのだろうか。

 今年5月28日、オバマ大統領は米陸軍士官学校卒業式で、今後の国際社会における米国の外交政策指針を演説した。「孤立主義はとるべきではない」と主張する一方、「平和や自由の追求は重要だがその実現に軍事力行使は必ずしも必要ではない」と述べた。

 最大の脅威は「テロリズム」との認識を示し、軍事力行使の条件を「自国の安全、国益、同盟国の安全保障が脅かされた時」とした。米国に直接の脅威でない場合、効果やコストを考慮した上で、「同盟国など他国と共に軍事作戦」を行うと述べた。今回の空爆作戦は、この外交政策指針に沿ったものといえよう。

 また、オバマ大統領は、軍事力行使の要件を次のように明示した。

(1)軍事介入は、米国の安全への脅威が明白で、国民の支持がある時のみ、最後の手段として実施。

(2)軍事力行使の際には、戦略目標を明確にし、圧倒的な兵力を投入し、早期終結をはかる。

(3)軍事力行使前に出口戦略を策定しておく。

(4)米国への脅威が不明確な場合、同盟国やパートナーと共に集団的に行動する。

 (1)~(3)は、コーリン・パウエルが国務長官時代に提唱した「パウエル・ドクトリン」とほぼ同じであり、「パウエル・ドクトリン」のオバマ・バージョンと言える。

 オバマ大統領は9月24日の国連総会の一般討論演説で、「イスラム国」を「打倒しなければならない」と決意表明した。戦略目標は「イスラム国打倒」と明確である。国際社会に対し、一致した支持と協力を要請し、有志連合への参加を「世界に求める」と呼びかけた。軍事行動にサウジアラビア、ヨルダン、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、カタールの5カ国を参加させたのもドクトリン通りである。

 問題は早々に米地上戦闘部隊を派遣しないことを明言し、「イスラム国」を打倒するには「一定の時間がかかる」と指摘したことだ。空爆を決める一方、「圧倒的な兵力を投入し、早期終結」の原則は早々に放棄してしまった。これで出口戦略は成り立つのだろうか。

統合参謀本部のメルビル作戦部長も空爆後、「確実かつ継続的で粘り強い作戦の始まりだ」と述べ、目的達成に数年を要する可能性もあるとの見方を示した。国防総省のカービー報道官も「空爆は大きな成功を収めた」と強調したうえで、「まだ始まりにすぎない」と述べている。ここ数日でも戦線は拡大する一方だが、出口戦略は見えず、ニューヨーク・タイムズも「危険な新段階」と指摘している。

精密爆弾の使用比率が96%に

 テロとの戦いを「出口戦略なき愚行」非難してきたオバマ大統領がもし、空爆のみで「イスラム国」を倒せると思っていたら、軍事音痴との非難は免れ得ない。

 米統合参謀本部のメイビル作戦部長は、9月23日の記者会見で使用された爆弾の96%が精密誘導弾であることを明らかにした。湾岸戦争では 8%、コソボ紛争で35%、不朽の自由作戦で 57%、イラク戦争で 68%だったことを比較すれば、精密誘導弾使用の比重の重みがよく分かる。

 精密誘導弾は目標をピンポイントに絞り、破壊、犠牲、殺戮を極小化できる。戦後復興を考えた場合、必要以上の破壊は抑制した方がいい。民間人被害( Collateral Damage)の極小化も絶対必要条件である。精密誘導弾はこれらに適している。だが、落とし穴があることも忘れてはならない。

 攻撃が精密になればなるほど、精密な目標情報が必要となることはあまり理解されていない。誤差が数メートル単位の精密誘導兵器には、数メートル単位の目標情報が必要となる。精密誘導兵器は入力された目標情報を精密に破壊する。コソボ紛争では入力情報の誤りにより中国大使館を誤爆した。入力情報を誤れば、「正確な誤爆」をするということだ。

 米国防総省の発表によると、第1段作戦の空爆標的はイスラム国拠点など40カ所以上の武器弾薬・燃料の集積施設や訓練施設、司令部施設、新たな構成員を募集している職業斡旋施設などが標的になった。これらの目標情報は、偵察衛星などであらかじめ入手していたものであり、米軍にとっては赤子の手を捻るような作戦であった。

 だが、「まだ始まりにすぎない」と報道官が述べるように、「イスラム国」の息の根を止めるにはほど遠い。むしろ「憎悪」を増しただけだろう。

 今後は「イスラム国」が自らの目標を隠蔽し、頻繁に移動して目標情報を与えないよう行動するはずだ。偵察衛星は戦略情報入手には使えるが、戦術情報には使えない。タイムリーな目標情報が得られなければ精密誘導弾は「宝の持ち腐れ」と化す。

 イラク戦争では 38日間で戦闘終結宣言を出した。アフガンでの「不朽の自由作戦」では3日間で航空基地を制圧した。だが、その後は敵の「隠蔽と移動」により目標情報が容易に得られないテロ・ゲリラ戦になった。空爆の効果は著しく減じられ、戦況は泥沼に陥った。

 今後、「隠蔽と移動」を駆使する「イスラム国」との戦いで空爆を遂行するには、依然として人間の目と頭脳に頼らざるを得なくなるだろう。戦場なかんずく敵地の奥深くに特殊作戦部隊員を潜入させ、タイムリーな戦術情報を入手することが必要となる。

 アフガンでの「不朽の自由作戦」では、アラビアのロレンスよろしくベドウインに扮した特殊作戦部隊員が馬や駱駝に乗って敵地に潜入した。

マザーリシャリフの戦闘では、勇猛果敢なアフガニスタン騎馬戦士からなる山岳師団との戦闘で、馬やラクダに乗った5人の特殊作戦部隊員が敵の顔が識別できるところまで潜入し、攻撃目標を見つけて、GPS、レーザーを使った精密な目標情報を上空の戦闘機に送信して空爆を成功させた。ハイテクとローテクのコラボレーションだった。

間違いなく婦女子を人間の盾として使うイスラム国

 イラク戦争でも投入兵力 12万 5000のうち約1万が特殊作戦部隊員でこの任務に従事した。だが、最も犠牲が大きいのも事実である。

 今回、オバマ大統領は早々に地上部隊の派遣を否定した。空爆作戦を続けるのであれば、誰かが精密な目標情報を入手しなければならない。あやふやな目標情報では民間被害が出る可能性がある。

 ハマスがイスラエルとの戦闘で婦女子を「人間の盾」に使ったように、残虐な「イスラム国」は当然、婦女子を利用するだろう。婦女子に犠牲が出れば国際世論も一気に反米に転ずる。空爆作戦は早晩行き詰るに違いない。

 トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は9月23日、米軍主導の空爆を歓迎するとともに、トルコ政府が軍事支援や後方支援を提供する可能性があると表明した。「テロと戦うのに必要なら、どんな措置も講じる」と述べ、これには政治・軍事・後方支援が含まれると語った。

 ジョン・ケリー米国務長官は「世界は中東地域が自らのために戦うことを期待している」と中東各国が地上部隊を派遣するのを期待し、「トルコは今や、我々と共に空爆の成功を保証するため、追加的取り組みを進める準備ができた」と述べた。トルコが「前線に加わってくれるだろう」との見方を示したわけだ。

 だが、トルコがシリア領内に軍隊を出すのをバッシャール・アル=アサド大統領が認めることはあり得ない。まして米軍主導の空爆作戦のために、最も犠牲の大きい役をトルコが担うとも思えない。

 ローズ大統領副補佐官は記者団に対し、アラブ各国との共同軍事作戦は今後も続けられるとの見通しを示した。「アラブ各国が幅広く米国に協力している事実を中東地域全体が認識することが重要だ」と強調したが、危険な地上戦をアラブ各国に任せ、米国は空爆だけという都合の良い作戦が長続きするとも思えない。

 偵察や哨戒を主任務とし、敵を発見次第攻撃できるプレデターなどの無人機も登場するだろう。だが、無人機は破壊力が小さく、自己防御能力が低い。

 「イスラム国」は「世界で最も裕福なテロ組織」といわれ豊富な資金力を保有する。支配地域で算出される原油の売却や銀行からの略奪、あるいは身代金、そして個人や企業から営業許可料などで「毎月数百万ドルの収入」があると米国務省高官は言う。

「イスラム国」は豊富な資金力に任せて、高性能の装備を保有する。米国式防弾チョッキ、暗視ゴーグルを始めとして、防空システム、対戦車ミサイルまで装備している。自己防御能力の弱い無人機は無力化される可能性が高い。

甘い見通しは痛いしっぺ返しを招く

 オバマ大統領は今年1月、米誌とのインタビューで、「イスラム国」を含む各地のイスラム過激組織を「大学の2軍チーム」と評した。いささか情勢認識が甘いようだ。このような甘い見通しで、出口戦略なく軍事介入を開始したとしたなら、とんだしっぺ返しを被りかねない。

 長いテロとの戦いで疲弊した米国は、イラクから撤兵し、アフガンからも撤収しようとしている。今さら、イラクやシリアへの地上部隊を派遣することはないだろう。

 だとしたら、今回の空爆の決心は中途半端で軽率に過ぎる。中東にとって最悪のシナリオは、途中で米国が投げ出すことだ。中東での米国プレゼンスの消滅は、中東の混乱は世界中に波及することになる。

 情報なき空爆で「イスラム国」を打破するのは不可能である。シリア領内の「イスラム国」の指揮・統制や補給拠点に打撃を与える第一段作戦が終了したら、後は深入りを避け、戦略を転換することだ。

 国際社会に呼びかけ、資金源や補給路を断ち、武器の入手経路を遮断して「イスラム国」を孤立させ、弱体化させる戦略への方向転換である。同時にテロリストの国外脱出を封じ込めると共に、各国がテロリスト入国を阻止する水際作戦を徹底することだ。

 米国はずるずると効果の上がらない空爆を続け泥沼に陥ってはならない。だが、手をつけたからには、逃げ出すようなことがあってはならない。今からでも遅くない。出口戦略をしっかり練ることだ。

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