TPP日米協議 「聖域」無視は許されぬ
環太平洋連携協定(TPP)交渉の日米事務レベル協議が東京で行われた。
日本側の大江博首席交渉官代理は「確実に、着実な成果はあった」と述べる一方、合意にはなお時間がかかるとの見通しを示した。
例によって、禅問答のような受け答えで、交渉の進展状況は全く分からない。
ところが、今回の協議で、米国側は脱脂粉乳の輸入自由化を要求したという。
脱脂粉乳は、日本が「聖域」とする重要5農産物の中の乳製品に含まれる。
特に、生産の8割以上を占める北海道への打撃は甚大だ。
当然ながら日本側は拒否する構えだが、交渉の大詰めとされる段階で、このような要求が出てくること自体が驚きである。
衆参両院の農林水産委員会は、聖域が確保できない場合、脱退も辞さないと決議している。
これを忘れず、政府は毅然(きぜん)とした態度を貫くべきだ。
輸入される脱脂粉乳には価格と量に応じて関税がかかっている。輸入品との差別化は困難で、自由化されれば国産品は太刀打ちできない。脱脂粉乳と同時に加工されるバターの生産も危うくなる。
道内では、生産される生乳のうち、乳製品向け原料乳が8割を占める。原料乳の半分は、脱脂粉乳・バター用だ。
脱脂粉乳抜きでは、道内の酪農は成り立たない。
オーストラリアとの経済連携協定(EPA)では、オーストラリア産牛肉の関税が、現行の38・5%から半分程度に徐々に引き下げられることになった。
国産乳用種の牛肉との競合が予想され、特に主産地である道内への影響が大きい。肥育農家だけでなく、子牛を提供する酪農家の経営も圧迫する恐れがある。
続く日米TPP協議でも、本来は聖域であるはずの牛肉・豚肉の関税が焦点となっている。
交渉内容は守秘義務で明らかにされず、農業関係者の不安は募るばかりだ。そこへ今回の脱脂粉乳の自由化要求である。
これでは道内の酪農家は将来展望が描けず、離農に歯止めがかからなくなるだろう。
日米両国は事務レベル協議を続行し、25日からオーストラリアで開催予定のTPP閣僚会合までに一定の合意を目指す方針だ。
しかし、聖域での譲歩は論外だ。地域の崩壊につながるような妥協は断じて認められない。
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