Continued Tension in Defining the US-China Relationship

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これからも続く新型大国関係をめぐる確執

米中首脳会談が浮き彫りにした溝

加藤 嘉一

2014年11月20日(木)

 「いまここでリークするわけにはいかない。サプライズだ。ただ、中国の特色ある場所で行われることは間違いない」

 11月4日、ワシントン。駐米中国大使を務める崔天凱氏はこのように答えた。アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が開催される直前に、中国2大通信社の一つ、中国新聞社の記者が「習近平・オバマ会談は北京のどこで行われるのですか?」と質問したのに応じた。

 今回の米中首脳会談は、2013年6月に米カリフォルニア州サニーランドで約8時間にわたって行われた非公式会談に対する“お返し”の意味合いを持つ。このため“北京版サニーランド会談”に中国メディアは注目していた(今回のオバマ大統領訪中は公式訪問であるため、厳密にはサニーランド非公式会談と同等に扱うことはできない)。

オバマは「新型大国関係」をどう考えているのか

 11月11日、18時半。APEC首脳会議終了後、習主席がオバマ大統領を出迎えたのは、自身の仕事場でもある中南海だった。中国共産党の権力を象徴するこの場所は、崔大使がほのめかしたように、中国の特色に溢れた場所だ。

 黒いロングコートをまとった習近平・オバマ両首脳は、米中それぞれの通訳だけを伴って、中南海の瀛台(えいだい)を散歩し始めた。辺りはすでに真っ暗になっていた。サニーランドにならって、2人は今回もノーネクタイだった。

 習主席はオバマ大統領に対してこう切り出した。「我々は昨年サニーランドで会談をし、今日は夜の瀛台で話をすることになった。以前よりも多くの項目で合意できるようになった。一方で、考えが異なる部分もある。議論をし、違いがあることを受け入れればいい。それこそが中米新型大国関係を的確に体現することになるのだ。相互に理解・尊重し、摩擦を管理し、衝突せず、対抗せず、協力できる関係を実現することだ。これからの日々の中で、我々がこのような環境づくりに励み、今回のような話し合いをより多く持てることを私は望んでいる」。

 中南海での習近平・オバマ会談に関わった共産党関係者は次のように語る。「サニーランドで“新型大国関係”を切り出して以来約1年半が経った。今の時点でオバマ大統領がこの概念をどのように捉えているかを知ることが、習主席にとって今回の会談の一つの目的だった」。

 両首脳は歴史、経済、人権、民主、主権、統一など、多岐にわたって習主席と意見交換をした。本来の予定では21時半に終了するはずだった“中南海会談”は、23時過ぎになってようやく終了した。

 オバマ大統領は習主席にこう告げて、2人は別れた。「今晩、私は人生のなかで最も全面的に、そして深く中国共産党の歴史と執政理念、そしてあなたの思想を理解することになった」。

「異例とも言えるオバマ厚遇」

 翌朝、習近平・オバマ両首脳は場所を人民大会堂へと移して正式な首脳会談に臨んだ。「今回のオバマ大統領の公式訪問に際して、米中政府は27の合意・成果を発表した」(王毅外相)。そのうちの1つが、米中双方が具体的なロードマップを示した温暖化ガス削減をめぐる合意・声明。このほかに、約200品目に対する関税を新たに撤廃することを定めた情報技術協定(ITA)、米中両軍の信頼醸成措置の構築やビザ発給条件の相互緩和などで合意した。

 11月11~12日の公式訪問期間中、政治局常務委員7人全員がオバマ大統領と会談した事実も、筆者にとっては“サプライズ”であった。習主席に至っては、約10時間をオバマ大統領と共に過ごしたことになる。「異例とも言えるオバマ大統領への厚遇は、我が国・我が党がどれだけ対米関係を重視しているかを物語っている」(中国共産党関係者)。

“新型大国関係”をめぐる溝は埋まっていない

 首脳会談後、米中両首脳は共同記者会見に臨んだ。同会見は、習主席・オバマ大統領がそれぞれブリーフィングをし、その後、米中の記者一人ずつ(ニューヨーク・タイムズとチャイナ・デイリー)から質問を受け付ける形をとった。

 筆者にとって印象的だったのは、習主席が提起した“新型大国関係”(a new model of major-country relations)という概念に対して、オバマ大統領が反応を示さなかったことである。

 共同記者会見後、中国の国営新華社通信が配信した中国語の記事によれば、「米国側は、中国と共に米中新型大国関係を構築していきたいとの意思を示した」とあるが、同日、米ホワイトハウスが公表した英語のプレスリリースを読む限り、オバマ大統領は“新型大国関係”(a new model of major-country relations)という言葉を一度も使用していない。

 本連載でもたびたびテーマとして扱ってきたように、“新型大国関係”をめぐって、米中両政府の間にはギャップが存在してきた。このギャップは、まだまだ埋まっていないように見える。

中国中央電視台が米中関係を特集

 オバマ大統領が北京を離れて2日が経った11月14日、国営中国中央電視台(CCTV)で国際問題を扱う4チャンネルの番組《深度国際》が「中美“定義”新型大国関係」(米中が“新型大国関係”を定義する)という特集を組んだ。中国語の番組であるが、英語のサブタイトルまでついていた。約45分間の番組は、主にサニーランド会談から中南海会談までの米中関係を振り返りつつ、“新型大国関係”のいまに焦点を当てている。中国を代表する米中関係の専門家3人に加えて、王毅外相やヘンリー・キッシンジャー米元国務長官への取材もビデオに収まっていた。

筆者は「今回の習近平・オバマ会談を経て、米中が“新型大国関係”の定義を巡って合意に達したと結論づけるのか」と予想していたが、蓋を開けてみると、意外なほどに異なる内容だった。むしろ、米中間には“新型大国関係”の定義・中身・目標をめぐって相当程度のギャップが存在する現実を浮き彫りにしていた。

 番組は、現段階においてG2を受け入れる意思も能力もない中国はC2(CはCooperation、 Coordination、 Communityの頭文字で、2は米国と中国を指す)に基づいた米中の協力関係・体制を望んでいる。“新型大国関係”はC2の延長線にある、というロジックを打ち出した。

 それから、米中“新型大国関係”の特徴を3つに整理した。

(1)衝突せず、対抗せず。

(2)相互尊重

(3)協力とウィンウィン

 この3点は、習主席が中南海会談でオバマ大統領に提起した“原則”と重なる。

 番組は、この3点に米中双方が同意しているとは結論付けず、むしろ米国側との矛盾点を浮き彫りにしていった。

 「(1)に関しては、米国側はすでに外交ルートを通じて同意を示している。台頭する大国と既存の大国との衝突は避けるべきであると考えている。しかし、米国が危機管理の観点から“衝突せず、対抗せず”を実践したいのに対し、中国は衝突や矛盾が生じる原因を探し出したいと考えている」

 「(2)に関しては、米国はまったく受け入れていない。中国の核心的利益について譲歩するよう中国側が米国に迫ってくると考えている」

 「(3)に関しても、米中それぞれが提起する方法論にはギャップがある」

 要するに、習主席が“新型大国関係”の軸として掲げる3点すべてにおいて、米中は立場や解釈のギャップを抱えている、ということだ。

「米国は覇権的なのだ」

 番組の中で、米中関係の専門家で、中国人民大学国際関係学院副院長を務める金燦栄教授が登場。この3点を米国側がどう理解しているかについて以下のように解説を加えた。

 「“衝突せず、対抗せず”に関しては米国も受け入れている。超大型国家である米中による戦争は人類の災難だと分かっている。“相互尊重”は受け入れない。中国はいつも核心的利益を拡大しようとしていると思っている。あと、米国は内心で、中国を平等なパートナーだとは思っていない。対等な大国としての地位を中国と分かち合うつもりはないのだ」

 「“協力とウィンウィン”に関しては要するにこういうことだ。株は半分ずつ保有するが、利益は米国が8割持っていき、中国には2割しかよこさない。米国は覇権的なのだ。私から見て、米国は中国のように国力があり、しかも新しいアイデアをたくさん持つ国家にいまだかつて向き合ったことがない。どのように対処すべきか悩んでいる。悩んでいるあいだに中国が“新型大国関係”を提起してきた。よって、米国はそれを拒絶しないまでも、同意を示さないのだ」

番組は、習近平・オバマ会談で協力関係を強化していくと話し合った地域情勢に関しても、まだまだ矛盾が山積みだと主張した。そして次のように結論付けた。「米国は、シリア問題やクリミア問題での協力を中国に求めるが、中国は受け入れない。中国は東シナ海や南シナ海問題について米国に協力を求めるが、米国は受け入れない。米国は中国が“拡張的覇権戦略”(expansionist hegemony)なのか“防御的平和台頭”(defensive, peaceful rise)なのかを測りかねている。一方、中国は米国が“攻撃的包囲戦略”(aggressive strategy to surround it)なのか“防御的封じ込め戦略”(defensive strategy to contain it)なのかを測りかねている。どちらも互いを信用していないからこそ、とりあえずは協力関係を進めていこうと言うしかないのだ」。

 筆者は、この番組の内容はまさに習主席の心境を物語っているとの感想を持った。中国が “中米は新型大国関係を進めていくことで合意した”と対外的にプロパガンダしている現象と、共産党指導部が実際に直面している現状、およびそれに対する解釈は異なる。

これからも続く新型大国関係をめぐる確執

 2013年6月、サニーランドにてオバマ大統領と向き合った習主席は、(1)我々にはどのような中米関係が必要なのか、(2)中米はどのような協力をもってウィンウィン関係を構築するのか、(3)中米はどのような連携と協力をもって世界の平和と発展を促すべきか、という3つの視点から“新型大国関係”をめぐる話し合いに入った。

 それから約1年半、習主席にとっては「まだまだ道半ば」といったところだろう。オバマ大統領にすれば、前述の合同記者会見でも触れたように、「中国側の“新型大国関係”という概念ごっこには付き合わないというスタンスだ」(米国務省スタッフ)

 このスタンスを裏付けていたのが、APEC首脳会議直前の11月5日午前、ジョンズホプキンス大学高等国際問題研究大学院で、ジョン・ケリー国務長官が行なった講演である。テーマは米中関係。ケリー長官は「米中関係は最も重要な関係である」としつつも、「見解や立場の違いをマネージすることは、その違いに同意することを意味しない。南シナ海、サイバーセキュリティー、知的財産権、そして人権問題を含めてだ」と付け加えた。“新型大国関係”(a new model of major-country relations)という言葉は終始使用しなかった。

 2009年11月16日、米国大統領として初めて訪中したバラク・オバマ氏を空港で出迎えたのは当時国家副主席だった習近平氏だった。それから約5年の月日が経った2014年11月11日、中南海での約5時間に及んだ会談を終えたオバマ大統領は、習主席との別れ際、しんみりとした面持ちでこう漏らした。

 「私の任期はあと2年しか残っていない」

 習主席は少し間を置いてこう返した。「2年という時間は短くない。あなたはこの間に新たな、輝かしい業績を打ち立てることも可能だ。この2年の間に、あなたが中米新型大国関係を強化・発展させることを私は望んでいる」。

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