Lull in TPP Negotiations

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TPP交渉停滞

2014年11月13日

今こそ本県の意見を政府に

 日米など12カ国による環太平洋連携協定(TPP)交渉の首脳会合が中国・北京で開かれた。交渉の中核をなす日米協議が決着しなかったため目標の年内大筋合意ができず、声明に今後の合意目標時期も盛り込めないまま終わった。

 日本として、ここで交渉を焦るのは得策でない。農業関係者を中心にTPP推進反対論が強い本県では、ひとまず安堵(あんど)した空気もある。だが、米国は政治情勢の変化で、日本が関税を維持したい牛・豚肉など重要農産物5項目をめぐり、これまで以上の強硬姿勢に出てくる恐れがある。警戒を強めるべきだ。

米の強硬姿勢に注意

 協議の鍵を握る米国では先の中間選挙で共和党が圧勝。議会上下両院を支配することになった。民主党のオバマ大統領とは主要な政策で対立しており、通商分野でも交渉姿勢が大きく変化する可能性がある。まず予想されるのは、自由貿易の拡大を支持する共和党が、通商交渉の強力な権限を大統領へ付与する方向で動くことだ。まずこの変化を見極めたい。

 この権限が与えられれば交渉推進へオバマ政権にはプラスだが、日本には負の面もあり得る点に注意が必要だ。日本などほかの参加国の大幅譲歩受け入れを狙ってくる可能性が高い。

 民主党の支持基盤が労組や環境団体なのに対して、共和党は食肉生産者団体に近い。支持基盤の意向を受けて、農産物5項目で強硬姿勢を打ち出しそうだ。日米のTPP協議が一時的に後退や足踏みに陥ることも覚悟した方がいい。

 これまでTPP交渉で取り上げられることはなかった為替問題が前面に出てくる可能性もある。米議会では円安ドル高への不満がくすぶっていたが、米国が10月で量的金融緩和を終了する一方、日銀が大規模な追加緩和へ踏み切った影響で、さらに円安ドル高が加速。自動車など米輸出企業に影響が出始めたことから、日本を念頭に「TPP協定に為替操作の禁止を盛り込むべきだ」との声が党派を超えて広がっているという。新たな火種とならないか注意したい。

輸出拡大見込めるか

 日本にとってこの2年間の円高修正は、TPPによる関税引き下げよりも輸出押し上げ効果が大きいとみられたが、実際の輸出は数量的に増えなかった。現地生産の拡大など産業構造が変化したためとみられ、TPPが実現しても当初想定した輸出拡大効果は望めない可能性がある。

 であればなおのこと日本に利点の乏しい安易な譲歩は禁物だ。自動車関連の輸出が見込めず、農産物の輸入だけが大々的に進めば、日本にとってはメリットがない。

 県内では昨年3月に安倍首相がTPP交渉参加を表明したころよりも、食の安全、中山間地の社会を守る観点から農業の多様な価値を見直す議論が進んでいる。協議が停滞している今こそ、蓄積された本県の意見を政府に届けたい。

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