2014.11.22 10:00更新
【明日へのフォーカス】
高畑昭男 懸念されるレームダックの焦り
米中間選挙で与党・民主党が大敗を喫したため、オバマ大統領は残された2年余の任期の間、レームダックの道をひたすら進む以外になくなった。
オバマ氏に限らず、任期末にレームダック化するのは制度上も避けがたい現象で、歴代大統領が実証ずみだ。ただ、今回はオバマ氏自ら「アイゼンハワー(1958年)以来最悪」と予想した通りの大敗北となった。連邦上下両院ともに共和党支配下となった打撃は大きい。
選挙前に共和党が支配していたのは下院だけだが、来年は政府・議会の関係が「半ねじれ」から「全ねじれ」に陥る。議会にさからって政策を進めようにも法案は通らないし、予算も得られない。大統領は手足を縛られる。その中でレガシー(政治的業績)を築こうとすれば、政策に無理や破綻を生じやすい。
とりわけ、内政よりも議会の監視と抵抗の少ない外交分野でそのリスクが高いことも歴代の例が示している。ブッシュ前大統領は任期切れ間際に北朝鮮から核合意を取りつけようとあせって、「テロ支援国家指定」を解除し、対北制裁を緩めるという大きな間違いを犯した。
オバマ氏もその例にもれないことが、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を含むアジア歴訪で示されたように思う。北京で開かれたAPEC・CEOサミット(ホスト国の財界主催のフォーラム)では「広い太平洋には米中両国を受け入れる十分な空間がある」という習近平・中国国家主席の言葉を「私も同意する」と2度も繰り返した。米中首脳会談では、中国との緊密な協力がアジア太平洋回帰戦略(リバランス)の「核心である」と強調した。
1期目の2011年にクリントン国務長官(当時)が打ち出した本来のリバランス戦略は、中国の軍事的台頭や力ずくの海洋進出を牽制(けんせい)し、日豪などとの同盟関係を強化することにあったはずだ。
習近平政権は対抗して「新たな大国間関係」を提唱したが、今やオバマ氏はこれに乗って「米中関係を新たな段階に引き上げたい」と語る。米中協力を軸とする「G2」をめざすかのように、リバランス戦略が変質させられつつある。
思い起こされるのは昨年1月、米大手シンクタンクが発表した「2期目の外交政策提言」だ。オバマ氏寄りの専門家たちが執筆した提言は、南シナ海や日本の尖閣諸島問題などを念頭に、「小さな島や岩礁をめぐる紛争にアメリカが巻き込まれてはならない」とし、中国との融和を優先させるよう勧告していた。
ブリスベンで行った外交演説で、オバマ氏は同盟強化を訴え、中国に国際規範を守るよう呼びかけたが、強引な海洋覇権の追求や一方的な防空識別圏(ADIZ)設定などの問題行動にはほとんど触れなかった。また、「僻地(へきち)の島や岩礁が衝突の危機を招いている」と語り、シンクタンク提言とほとんど同じ言い回しをしていたのには驚いた。
日中首脳会談を実現させたのは安倍晋三首相の外交的勝利である。米国も歓迎したのは当然だ。だが、オバマ政権の心の底では同盟国・日本の主権や領土保全を強く支えるというよりも、むしろ日中がいらぬ衝突を起こして巻き添えにされたくないという「巻き込まれ回避」論のほうが強いのではないか。
アジアが期待したリバランス戦略は、「オリジナル版」からケリー国務長官やライス大統領補佐官らが画策する「修正版」に変質してしまった。対中牽制と協力はいずれにも欠かせない要素だが、どちらに力点を置くかで大違いとなる。
先のシンクタンク提言は米中融和とともに、イランに適切に譲歩して核問題を解決すれば「立派なレガシーになる」と勧めている。勘ぐりたくはないが、同盟国の懸念を無視して「米中協力」の形をつけ、イランに譲歩することがオバマ氏の狙う業績外交であるなら、残る任期は同盟や日本にとって極めて危険に満ちた「空白の2年」となりかねない。
安倍首相には総選挙で陣容を一新し、日本の平和と安全を守る態勢の立て直しを急いでほしい。(白鴎大学教授)
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