2014.12.9 11:50
【風を読む】
米・イランの奇妙な「仮想同盟」で中東新秩序へ
中東で勢力を伸ばすイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」に対する掃討作戦で、イラクの隣国であるシーア派大国、イランが戦闘機を投入したことが初めて確認された。
先月末、イラク東部ディヤラ県への「政府軍」による空爆を伝えた中東の衛星テレビ局の映像から偶然判明した。当初、イラン側は否定し、事実を認めた米政府もイランとの連携は一切ないと強調した。
確認されたのは1機で、1979年に親米パーレビ政権を倒したイスラム革命前からイランが保有していた米マクドネル社製のF4戦闘機(通称ファントム2)だという。
ある英軍事専門家は「(制裁下にある)イランが古い航空機を維持する技術は世界一だ」と、ややあきれ気味の感想を英紙に漏らした。
旧式のイラン戦闘機が波紋を広げたのには、それでも理由がある。
革命を発端とした米国とイランの敵対関係は30年以上に及ぶ。しかし今年6月、イスラム国がイラク北西部モスルを陥落させ、危機が迫るとイランは真っ先にイラク支援に乗り出し、米国も8月、イスラム国への空爆を始めた。米・イランは今、奇妙な「仮想同盟」の関係にある。
とはいえ、お互い「裏で手を結んでいる」とみられることは、厄介な問題を引き起こす。
イランは国内に反米強硬派を抱え、米国はイスラム国掃討のシリア戦線において、地政学的にイランの勢力拡大を警戒するサウジアラビアなど湾岸のスンニ派アラブ諸国の協力を得ている。米国が露骨にイランに傾けば湾岸諸国は離反し、シリア戦線は瓦解(がかい)しかねない。まして難航するイランの核開発をめぐる交渉ではイランに足元を見透かされよう。
イスラム国壊滅への道程は遠く、米国、イラン、湾岸アラブそれぞれに「敵の敵は味方」の状況はしばらく続く。裏を返せば、共通の敵が消えれば元のもくあみとなりかねない。そうならぬよう、新しい中東秩序模索の出発点にできないものか。
論説副委員長・村上大介
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