米・キューバ接近がもたらす力学の変化
2014/12/19付
中南米に残された米ソ冷戦の負の遺産を自分の手で取り除いてみせる。外交が不得手と評されることの多いオバマ米大統領が、こんな決意を胸に大きな勝負に出た。
ほぼ半世紀にわたって関係を断絶してきた隣国キューバと、国交正常化の交渉を始める。1959年の社会主義革命後、米国は同国を敵視し、孤立させる政策をとってきた。この路線を180度変える歴史的な転換だ。
野党・共和党が強く反発しているため、先行きは予断を許さないが、米政府の発表によると、正常化交渉を進め、数カ月以内にキューバの首都ハバナに大使館を開くことをめざす。「テロ支援国家」の指定の解除を検討するほか、人的往来や送金制限も緩和する。
実現すれば中南米のみならず、世界の政治力学に影響が及ぶ。アジアにどう跳ね返ってくるか、日本としても注視したい。
まず、考えられるのは経済面の変化だ。キューバは1千万人を超える人口を抱え、巨大市場である米国と目と鼻の先にある。米国の制裁が緩めば、これまで同国でのビジネスに二の足を踏んでいた日本企業も動きやすくなる。
見逃せないのが、今回の決定が中南米の地勢図に及ぼす影響だ。この地域にはベネズエラやボリビアなど、反米色の濃い国が少なくない。キューバは代表だ。
今年7月にはロシアのプーチン大統領、中国の習近平国家主席が相次いでキューバを訪れ、連携をうたった。米国をけん制する狙いだろう。米国がキューバに接近することでロ中の動きにブレーキをかけ、中南米の不安定化を防げれば日本にもプラスだ。
気になるのが、オバマ政権の決断がキューバと同じ独裁国家であり、米国と敵対する北朝鮮にどう映るかだ。同国も本音では米国と関係正常化を望むが、米側が求める核放棄は拒み続けている。
北朝鮮が「オバマ政権は御しやすい」と思い込めば、米朝関係は一段と泥沼化するおそれがある。米政府は核問題では妥協の余地が一切ないことを、改めて北朝鮮側に突きつけるべきだ。
歴代米大統領は任期の終わりがみえてくると、後世に名を残そうと特に外交で大きく踏み出すことがある。功名心がかちすぎると、そこに隙ができ、相手につけ込まれかねない。世界史に刻まれる可能性の高い決断であればこそ、地に足をつけて交渉してほしい。
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