Abe’s Address to US Congress: Things Said and Unsaid

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【米議会演説】言い、言わなかったこと

 安倍首相が米連邦議会の上下両院合同会議で演説した。

 演説は「希望の同盟へ」と題したように、日米同盟の強化を全面的にうたいあげる内容だ。日本にとって米国との関係が極めて重要なのはいうまでもないが、演説には見過ごすことができない点がある。

 首相は、自衛隊と米軍の協力関係を強化する新たな日米防衛協力指針(ガイドライン)の意義を強調し、そのために安全保障法制の充実に取り組んでいるとした。自衛隊と米軍の一体化は地球規模に拡大し、憲法と日米安保条約の枠組みを逸脱する内容といわざるを得ない。

 その安保関連法案はまだ国会に提出されていない。にもかかわらず、首相は演説で夏までの成立を2度にわたって約束した。国会をはじめ、国内の論議を軽視する姿勢を認めるわけにはいかない。

 もう一つ注目されたのは歴史認識をめぐる発言だ。首相は「先の大戦に対する痛切な反省」とともに、「自らの行いが、アジア諸国民に苦しみを与えた事実から目を背けてはならない」と表明した。

 さらに、ワシントンにある第2次世界大戦記念碑に言及し、多くの米兵が戦死した真珠湾などを挙げて、「深い悔悟を胸に黙とうをささげた」とも述べた。米議会にくすぶり続ける、首相を「歴史修正主義者」とする見方を打ち消す狙いがあったのだろう。

 だが、植民地支配や侵略によってより甚大な被害を受けたアジア諸国に対する「おわび」の言葉はなかった。また、オバマ大統領との首脳会談では言及した従軍慰安婦問題にも全く触れていない。

 これに対し、韓国外務省は「極めて遺憾に思う」とする報道官声明を発表し、中国外務省の副報道局長は不満を表明した。米議員からも批判の声が上がっている。

 首相は夏に発表する戦後70年談話では、「侵略」や「おわび」の表現を使いたくないのが本音のようだ。だが、「事実から目を背けてはならない」というのであれば、謙虚に歴史を直視すべきだろう。

 首脳会談と議会演説を通じ、安倍政権の対米傾斜が一層鮮明になった。日米同盟が外交・安全保障の基軸ではあっても、対米追従がもたらす危うさにも目を向ける必要がある。

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