TPP実現へ重大な責任を負う米議会
米国の議会がどんな決定を下すのか。それによって、環太平洋経済連携協定(TPP)の命運が大きく左右される状況になってきた。米議会は責任の重さを自覚し、交渉の推進を促す法案を速やかに成立させるべきだ。
環太平洋地域の12カ国が参加するTPP交渉は、いま足踏みした形になっている。米大統領に貿易促進権限(TPA)を与える法案の成立が遅れ、閣僚会合が事実上開けなくなっているからだ。米上院は先週末にようやく法案を可決したものの、下院の審議の行方はなお不透明だ。
TPA法案が成立すれば、米議会は自由貿易交渉で合意した内容を修正できなくなり、合意案を一括で承認するか拒否するかの二者択一しかできなくなる。これが通らないと、合意後に米国から修正案が出され、交渉が振り出しに戻ってしまう恐れがある。このため、交渉合意の大前提はTPA法案の成立というのが交渉参加国にとっての共通理解になっている。
法案成立が遅れている背景には米議員の間で自由貿易への懐疑論が広がっていることがある。自由貿易で米国の雇用が奪われ、経済も打撃を受けるとの考え方が、保護主義的な勢力が強い民主党だけでなく、共和党の一部議員にまで広がっている。製造拠点が多い州から選ばれた議員は自動車部品の関税撤廃などに反対している。
ドル相場が上昇するなかで、外国による「為替操作」に歯止めをかける内容を法案に盛り込むべきだとの声も強まっている。成立した上院の法案は、政府に対する拘束力が弱い内容で落ち着いたが、下院はこれと異なる法案が提出される可能性もある。
上下院の調整などでTPA法の成立に手間取れば、TPPの実現が危うくなる恐れもある。米国は来年秋の大統領選挙へ向けて「政治の季節」を迎えようとしており、自由貿易に反対するムードが一段と強まりかねない。
TPP交渉は著作権や医薬品のデータの保護期間の統一など、なお難航している分野が少なくない。米国だけでなく、日本も交渉の前進に向けて指導力を発揮していかなければならない。
アジア・太平洋で貿易や投資が加速し、質の高いルールが行き渡ることは、地域の経済的な繁栄を促す。その推進力になるTPPが実現するかどうか、大きな正念場を迎えつつある。
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