日米首脳会談 物言う同盟でありたい
2015年4月30日
戦後七十年という節目の日米首脳会談である。敵国同士の和解は先人の努力の賜物(たまもの)だが、相手に物を言わず、従うだけでは「同盟国」とは言えない。
ホワイトハウスで行われた安倍晋三首相とオバマ大統領との首脳会談。終了後発表した「共同ビジョン声明」で両首脳は、日米がかつての「敵対国」から「不動の同盟国」となったと宣言した。
日本の首相にとって、小泉純一郎氏の二〇〇六年以来、九年ぶりの公式訪問だ。首相がリンカーン大統領を顕彰する記念堂を訪問する際、大統領が案内役を買って出るなど、厚遇ぶりも目立つ。
◆不戦が戦後の出発点
共同記者会見の冒頭、大統領は「お互いのために」と日本語で切り出し、「これが日米同盟の本質だ。世界にとっても教訓になる。首相がアーリントン国立墓地を訪れたことに感謝する。過去を克服できることを示す」と述べた。
首相も「私たちには一つの夢がある。平和と繁栄で満ちあふれた社会をつくることだ。日米が新しい時代を切り開く決意を、大統領と確認した」と応じた。
七十年前まで戦火を交えた両国が和解し、世界の平和と繁栄に力を合わせることは、国際社会にとって教訓となり得る。地球規模で広げたい、望ましい姿である。
その出発点が、日本が二度と侵略戦争をしないと反省し、その決意を憲法に書き込んだことにあることをいま一度思い起こしたい。
その後、日米安全保障条約を締結、改定し、米軍に日本駐留を認める一方、自衛隊という実力組織を持つに至ったが、「専守防衛」政策の下、抑制的な防衛力整備、安全保障政策に努めてきた。
それが、戦後日本の繁栄につながり、日本が再びアジア・太平洋地域の軍事上の懸念材料とならなかった要因でもある。
◆憲法制約あるはずだ
そのアジア・太平洋地域で、新たな懸念材料となっているのが中国の台頭であり、今回の首脳会談でも、日米両国が同盟強化を確認した主たる背景となっている。
共同会見で首相は、中国の海洋進出などを念頭に「いかなる一方的な現状変更の試みにも一致して断固反対する」と表明し、大統領も中国による南シナ海での岩礁埋め立てや施設建設に日米が懸念を共有していることに言及した。
首脳会談の開催に合わせて、日米防衛協力のための指針(ガイドライン)を再改定したのも、自衛隊と米軍が連携を強化すれば、中国を念頭に、抑止力が高まるというのが、日米両政府の説明だ。
環太平洋連携協定(TPP)交渉の妥結を急ぐのも、貿易ルールづくりに先手を打つ意味合いがあるのだろうし、アジアインフラ投資銀行(AIIB)参加を日米がそろって見送ったのも、中国への警戒感からだろう。
中国はすでに世界第二の経済大国であり、今後も成長が見込まれる。大統領が言うように「平和的台頭は歓迎」されるべきであり、中国に対しては、力による現状変更は許されないと、今後も粘り強く説いていくべきだろう。
首相は「いかなる紛争も力の行使ではなく、国際法に基づいて平和的に解決されるべきだ」と述べた。平和憲法を持つ日本の首相なら、なおさら発言は当然だ。
しかし、再改定後の新指針は自衛隊の役割を大幅に拡大し、活動地域も地球規模に広げる。政府自身が長年、認めてこなかった「集団的自衛権の行使」も前提だ。
海外で武力の行使をしない「専守防衛」の憲法規定や、極東を対象範囲とする日米安全保障条約の枠組みをも超える。
周辺国に軍事大国化の意図を疑われ、軍拡競争の「安全保障のジレンマ」に陥ってはならない。力による刺激は建設的ではない。
新指針に対する米国の歓迎ぶりは、内容が同盟国に役割分担を求める米国の意向に沿ったものだからだ。首相自身も目指す方向性だとはいえ、日本の首相なら米国の意向をくむより、憲法の制約をまず伝えるべきでなかったか。
米国との合意を盾に国内の異論を封じ、安全保障法制整備を強行することがあってはならない。
◆沖縄県民の反対無視
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)について、首相は翁長雄志県知事が名護市辺野古への「県内移設」に反対していることに言及し、両首脳は辺野古移設が唯一の解決策であると確認した。これでは翁長氏の真意は伝わらず、県民の意向は無視されたも同然だ。
在日米軍基地の74%という過重な基地負担を一地域が負う同盟関係はやはりいびつだ。
これ以上、辺野古移設を強引に進めれば、ほかの米軍基地も県民の敵意に囲まれ、脆弱(ぜいじゃく)性を抱え込むことになる。「不動の同盟」関係とは言えなくなる。
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