自衛隊活動拡大
2015年12月1日
◆十分な国内論議が不可欠だ◆
中国が人工島造成を進める南シナ海問題で、安倍晋三首相はオバマ米大統領との首脳会談で連携強化を確認し、自衛隊の派遣も総合的判断に基づいて検討する意向を伝えた。また岸田文雄外相はパリ同時多発テロに対して「国際的なテロとの戦いでしっかりと責任を果たしていく」と表明した。
気になるのは自衛隊の活動の拡大だ。来年3月までに施行される安全保障関連法で自衛隊の活動領域は大きく広がる。しかし何を行おうとするのか、何が可能なのかは、慎重に判断すべきことだ。十分な国内論議が求められる。
安保法の目的鮮明に
日米首脳会談は4月以来で、安保法の成立後は初めて。首相が法成立を踏まえて「国際社会の平和と安定に一層貢献していく」と述べたのに対し、オバマ氏は「米国との連携を世界に広めていく協議ができる」と応じた。安保法の目的が、自衛隊と米軍の連携を世界規模に広げる狙いだったことを鮮明にするやりとりだろう。
だが安保法をめぐる審議では、米軍の活動にどこまで巻き込まれるのかとの懸念が指摘された。その懸念を忘れてはならない。
南シナ海への自衛隊派遣について、首相は「日本の安全保障に与える影響を注視しつつ検討する」と述べた。警戒監視活動などでの同海域への派遣は、自衛隊の装備や態勢の面から現時点では困難と指摘される。菅義偉官房長官も「具体的な計画はない」と話す。
ただ中谷元・防衛相が先日ベトナムを訪れ、同国基地への海上自衛隊艦船の寄港で合意するなど、関与の方策を探っているのは間違いない。地域の安定に資する行動は何かを慎重に考えたい。
日本は独自の役割を
オバマ氏は米艦船を中国・人工島の12カイリ以内に派遣する「航行の自由」作戦を継続する考えを示し、首相は支持を表明した。首相はトルコでの20カ国・地域(G20)首脳会合の際の各国首脳との会談でも、南シナ海問題を「深刻に懸念している」と繰り返した。対中けん制を働き掛けた言動だろう。
だが、南シナ海に面するフィリピンで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)では、南シナ海問題は議題にならなかったという。この問題をめぐる駆け引きの複雑さを表すものだ。
一方パリ同時テロなどを受け、米国やフランス、ロシアなど各国は過激派組織「イスラム国」への空爆を強化している。「責任を果たす」と日本政府が明言する中で、自衛隊による支援活動を求められる可能性はないのか。日米首脳会談でも、テロ対策での連携を確認している。
中谷防衛相は安保法の審議で「空爆への後方支援は全く考えていない」と答弁している。中東から距離があり、欧米とは歴史的な関与も異なる日本は、テロと報復の「連鎖」とは一線を画して果たせる役割を考えるべきだ。独自性を示す取り組みを求めたい。
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