Toward an Accepting World, Free of Hate

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憎悪でなく寛容の世界へ

 新年を迎えた世界の空は、残念ながら混沌(こんとん)とした厚い雲に覆われている。テロという暗い雲である。

 昨年11月のフランス・パリ同時多発テロに続き、12月には米国カリフォルニア州で銃乱射事件が発生。欧米の主要国の大都市を襲った激震の余波は収まっていない。

 パリのテロは過激派組織「イスラム国」(IS)の犯行と断定され、米国の事件もイスラム過激思想に傾倒した夫婦による犯行とされる。

 過激派組織はイラク戦争後の混迷や、「アラブの春」が失敗に終わり内戦状態になったシリアなど中東の混乱に乗じて勢力を拡大してきた。命懸けで国を脱出した難民は現在も数多く欧州に押し寄せている。

 ネットなどで個人や組織を扇動し、戦闘に駆り立てる非国家による脅威に、欧米やロシアは根本的な解決策を見いだせないでいる。ISへの空爆を強化しても効果が限定的である上、一般市民を巻き込み新たなテロを生む恐れさえある。

 欧米諸国にとって敵は内側にもいる。国内に広がる排外主義、反イスラム感情の高まりだ。

 難民受け入れに苦慮する欧州諸国では国境管理を厳しくし、極右勢力も台頭した。ことし大統領選を迎える米国では、イスラム教徒の入国禁止を訴える人物が共和党指名候補争いでトップを走っている。

 ISとイスラム教徒を同一視するなど無知もはなはだしい。ISにはアラブ諸国にも味方はおらず、むしろイスラム教徒を迫害する側だ。

 国際社会が移民や難民を排除し、反イスラム感情をあおることは、過激派を利することにほかならない。社会に亀裂を生み出し、日ごろ疎外感を抱いている若者たちを過激思想に誘い込むのがISなどの狙いだからだ。

 憎悪が憎悪を生む悪循環を断ち切るには、逆に寛容の精神が必要だろう。他者を思いやり、人権を尊重することは米国や欧州連合(EU)の建国、結成の理念だ。原点に戻って「内なる敵」を克服すべきだ。

 それは何も欧米に限った話ではない。テロリスト予備軍をこれ以上生み出さないために、移民らを貧困や差別に追い込まず、社会全体で受け入れる環境をつくる。それが国際社会全体の共通目標になったといえるだろう。

 国際協調はテロの温床となっている、シリアの内戦を食い止める上でも重要である。アサド政権をめぐっては、欧米とロシアの対立や中東のアラブ諸国の思惑などが複雑に絡み合っている。各国の利害を超えて共同歩調を早急に整えてほしい。

 国境を超えたテロとの戦いは困難を伴う。だが、あきらめてはそれこそテロに屈することになる。

 地球規模の課題では昨年12月、地球温暖化防止の国際会議「COP21」が、条約締約国全てが参加して温室ガス排出実質ゼロを目指す「パリ協定」を採択した。

 テロ直後に同じ地で結ばれた画期的な約束に、一筋の光を見る。

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