Don’t Allow a Pullback on ‘Freedom’: The US Presidential Election and the World

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「自由」を後退させるな 米大統領選と世界

 十一月の米大統領選は、米国主導の戦後秩序が揺らぐさなかの選挙だ。自由で開かれた世界であり続けるために、指導力のあるリーダーを期待する。

 拡散するテロや難民問題、くすぶる債務危機、それにロシアのウクライナへの軍事介入。欧州には難題が次々と降りかかる。そこに英国の欧州連合(EU)離脱が重なり、動揺は収まらない。

挑戦受ける国際社会

 七月の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議で、オバマ米大統領はこの状況を指して「七十年近いNATOの歴史の中で、一度にこれほど多くの試練に直面した時はない」と指摘した。

 首脳会議は「冷戦後では最も大幅に集団安全保障の強化を進める」(オバマ氏)ため、ロシアと国境を接するバルト三国などに、四千人規模の部隊を展開することを決めた。

 アジアでは、中国が南シナ海の軍事拠点化を一方的に進める。仲裁裁判所の判決を拒否し、既成事実を重ねる構えを崩さない。

 中国の海洋進出は東シナ海でも加速する。六月に中国海軍艦船が初めて尖閣諸島の接続水域に入ったのに続き、八月に入ってからは中国公船が大挙して領海侵入を繰り返している。

 米国の次期大統領はこうした試練にいやでも立ち向かわざるを得ない。

 国際問題へ過剰に関与した揚げ句、今の中東混迷の種をまいたブッシュ前政権の二の舞いは願い下げだが、米国は何かにつけ国際社会から頼られる存在だ。

 ところが、共和党候補のドナルド・トランプ氏には、世界のリーダーになる自覚が感じられない。

 「グローバル主義ではなく、米国第一主義が信条だ」というトランプ氏の主張は、米国の独り勝ちを意図しているのに等しい。

グローバル化のひずみ

 米国が世界に背を向けて殻に閉じこもれば、求心力を失った国際社会は乱れる。グローバル化の最大の受益者である米国も国力減退は避けられまい。

 その点、民主党候補のヒラリー・クリントン氏は大統領夫人や国務長官を務めた経歴から、米国の役割を理解している。

 だが、「自由貿易は雇用を奪う」と目の敵にする米国民が増えて、保護主義が大きなうねりになっている。クリントン氏がこれに抗しきれるかは見通せない。

 外からの脅威ばかりではない。

 EU離脱を決めた英国の国民投票では、グローバル化の恩恵にあずかれない「取り残された人々」の強い怒りが噴き出した。反移民感情をあおる排他的なポピュリズムも高まり、社会の分断を深める極端な主張が支持を集めた。

 この現象は世界的潮流になっている。代表格はトランプ氏だ。

 グローバル化で生じたひずみを是正し、取り残された人々に光を当てる政策を進める必要があるのは、各国共通の課題だ。

 一九八九年に米国、ソ連両首脳が東西冷戦の終結を宣言したのに続き、九一年にはソ連が崩壊。自由主義陣営は勝利に酔いしれた。

 それが最近は、「自由」がむしばまれる事態が続く。

 米国の非政府組織(NGO)「フリーダムハウス」がまとめた二〇一六年版年次報告書は、世界が享受する「自由」の度合いは十年連続で後退したと警告した。

 報告書は百九十五の国・地域を対象に、公正な選挙、表現の自由、信教の自由など二十五項目を数値化して判定した。

 「自由」と見なされたのは米国、日本、西欧各国など八十六の国・地域、「部分的に自由」がインドネシア、ウクライナなど五十九、「自由でない」はロシア、中国など五十だった。自由度が進展したと評価されたのはミャンマー、スリランカなど四十三で、逆に後退したのがトルコ、モロッコなど七十二に上った。

 報告書は米国について、ダイナミックで移民や少数派にも開かれた民主体制ではあるものの、富裕層や特定の利益集団の不当な干渉に遭っているとし、自由度は低下したと判定した。

 欧州全般については、自由、連帯、人権尊重という基本理念が、難民危機というかつてない圧力にさらされている、と強い危機感を示した。

内向きになる場合か

 一方、ロシアと中国については「プーチン体制下で強まる自由への圧力は、隣国や国際組織にも及んでいる」「政治的抑圧と経済成長の組み合わせという途上国世界でのモデルになっている」とそれぞれ指摘した。

 自由と民主主義は戦後世界の繁栄の礎になってきた。それが内外で試練にさらされている。

 次期大統領はその立て直しの先頭に立ってほしい。米国は内向きになっている場合ではない。

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